ダメなサー子の蘇生の義⑮
「おかあ…さん」
その時のダルメルの表情は初めて見るものでした。
感情というものがおおよそ表に出づらいダルメルが。
涙をあふれさせて、顔をくしゃくしゃにして、がばっと抱きつくのです。
「おかあさん!!!」
一同はしばらくその場で固まっていました。
今いる人数からすると、ちょっと手狭なサー子のおうちです。
ダルメルは白い髪を震わせて言います。
ずっとおかあさんがいなかったこと。
おかあさんは黒い子だということ。
そしてフォンテーヌに住んでいるはずだということ。
ティエン市の長であるおとうさんに捨てられたこと。
みんなはティエン市の長であるおとうさんに怒りをおぼえましたが、その前にここにいるダルメルがかわいそうで仕方ありませんでした。
そしてダルメルも少し落ち着いてきたころ、ぷーんが気づきます。
「…えッッ!! ちょっとまって!!!」
ソレってサー子の妹がダルメルで!!
サー子のお父さんがティエン市の長で!!
サー子のおとうさんでもあるってこと!!??
ん? んっ…?っとサー子はまだ気づかないようです。
「えええええ?!!」
ややあって、サー子もおどろきに腰をぬかします。
おかあさんがあらためて説明します。
もともと天使族であるおとうさんとは、黒い森からかけおちして出てきたのです。
それでフォンテーヌに住みましたが、おとうさんのあまりの冷酷さにふたりはうまくいかず離ればなれになってしまいます。
おとうさんは双子の姉妹のうち、妹のダルメルを連れて天に帰りました。
天っていうのは実はおとうさんの故郷のティエン市のことでした。
「いままでちゃんと言えなかったのは悪かったけど…まさかダルメルが帰ってくるとは」
おかあさんは言います。
「お父さん似の真っ白な天使の姿で、一目でわかったよ」
おかあさんはダルメルを抱き寄せながらしみじみと言います。
サー子たちはその気の毒な身の上がかわいそうで仕方ありませんでした。
雪崩を打ったように泣き崩れるダルメルの背中のふるえる羽根。
「ならもうここに住むしかないね」
サー子もその真っ白な羽根を包み込むように抱き寄せました。
サー子とダルメル、そしてシュートラ。
おとうさんは帰ってきませんでしたが、家族は増えて4人になりました。
「旅をする仲間っていうなら、5人とフゥアで6人になるんだね!」
シュートラも人が寄り添って生きることに安心感をおぼえます。
ダルメルはこうして帰る場所がフォンテーヌ市になったのです。
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王都ポーディッド。
10万人が活動する都市、と言われています。
通常1000人の兵が王都を守っていましたが、ゲオルクが宰相になってから兵は5000人に増やされています。
北には肥沃な平原がひろがるヴァイデンホーフ( Weidenhof )で麦などの農作物が豊富に供給されています。
東には港町ジーマンス( Seemanns )が海産物を。
西にハーヴィス川の防衛ラインを「ミント男爵」が治めるハーヴィス城( Harvis )があります。
そして南には要塞都市ポーレチケ( Porletike )とポーレチケ港が軍事的に陸と海をまもります。
まさに好条件の王都の地でした。
今のポーディッド王都民は貧困にあえいでいます。
軍事費は8倍に増えています。
さらに王都の各省の費用、特に宰相ゲオルクが消費する「王宮接待交際費」が膨大に増加しています。
それを支払うために人頭税と取引税、関税、ギルド税などが引き上げられた他、国家が介入する商取引の市場調整によって王都民はひどく搾取されていました。
カルベルシュタイン王国は「武力の治世」から進展していませんでした。
少しでも気に入らないと武力で鎮圧したり、処刑したりします。
ゲオルクの怖いところは、気に入らないヤツがいると神聖な場で屁をこいたとかいう適当な理由で王族不敬罪を適用して抹殺してしまうことです。
これに対してフォンテーヌは、最低でも「政治の治世」を実現していて、商慣行による為替取引を導入することによって「経済の治世」へと進化しようとしているところです。
フォンデンブルグ大臣をはじめ執行官ドラヴァヒなどのがんばりです。
簡単に言うと、せっかくフォンテーヌおかあさんが稼いできたお金を暴力をふるってうばいとって贅沢に使ってしまう、どうしようもないおとうさんがポーディッドで。
子供たちにあたるフォンテーヌ市民やポーディッド王都民は、その重税や搾取に貧困で苦しめられているというわけです。
フォンテーヌ市民はまだよかったかもしれません。
ポーディッド王都民は気まぐれに貴族に殺されてしまうことがよくあるからです。
それでも中には勇気のある人は必ずいます。
「老師ヴァイデノース」( Weidenos )です。
老師といってもおじいさんではなく、とても勇敢ないち婦人です。
老師というのは人々が尊敬をこめて送った「教導する人」という意味でした。
なにが尊敬をあつめているのかと言いますと、ゲオルクをはじめとする弾圧する権力者たちを恐れなかったことです。
フォンテーヌ市のような合議制の政治、自由貿易、国家による市場への介入の軽減などを言論によって訴えたのです。
王都民は彼女のいう「人としてより正しい振る舞いが大きな結果を創り出す」という論を大いに支持しました。
王都にある公会堂での彼女の演説です。
「王都民はよき父として、母としてつつましやかに暮らす。それだけでいいのです。それができない人間は王都民ではありません!」
これはゲオルクを批判していました。
当たり前のことを言うだけで敵視の対象となります。
だってゲオルクは普通に暮らすことができないほど、欲にまみれていたのですから。
何度か別件で罪を着せられます。
「この女は言動で王都民をまどわす」
「この女は淫らなことをしている」
「この女は魔女である」
とにかくとるに足りないことで、なんとか正しい言動を封じようとするのです。
でも彼女は負けないのです。
どんなに殴られても、不当に牢獄に拘留されても。
釈放されると「王都民はつつましやかに暮らす。それができないのは王都から出て行って!」とそれだけを訴えます。
その不屈の勇気に王都民はたったひとつの希望とし、援助を惜しみません。
ゲオルクは援助する人々にも迫害をしますが、カルベルシュタイン王国の明日を真剣に考えてる人たちは臆することなどありませんでした。
老師ヴァイデノースがすぐれていたのは「決して武力を使わない」というところでした。
彼女が95%の民衆をまとめ正論をかかげ権力者と対抗しているのです。
これはとてつもなくすごいことです。
フォンデンブルグ大臣も執行官ドラヴァヒも、老師ヴァイデノースをそれは大変尊敬していました。
ある日老師ヴァイデノースがフォンテーヌ市に来訪したときのことです。
フォンデンブルグ大臣は国賓の礼をもって応接したといいます。
執行官ドラヴァヒは、そのいち婦人として普遍的な人間性を保ちつつも烈火のごとく権力者に挑む勇気に感服して聞きました。
「どうしてそのような勇気が湧くのですか?」と。
彼女の回答はごく簡単なものでした。
「あなたも子供を産んでごらんなさい。そして普通に生きていればそうなります」と。
このエピソードは王国全土を感心させました。
※ダルメルです。




