ダメなサー子の蘇生の義⑭
「フォンテーヌはいい街だ」
ダルメルはずっとそう聞いてきました。
確かに公平に見て今ダルメルがののしられるというのは、ある意味ではいい市民たちであるのかもしれません。
正義感を感じます。
でもその対象が自分であるとき、それはそのまま受け入れられるものではありませんでした。
「結局(K)完全(K)に感情(K)論…」
KKKだわ…。と心の中でつぶやきながら市場街にむかって歩いていきます。
綺麗に下がった背中の真っ白い羽根。
隠しようのない天使族の姿は人目をひきます。
市場街に向かう間も陰口や罵声を浴び続けます。
でもダルメルはののしられることには慣れていました。
ダルメルはこの歳までおかあさんがいません。
ティエン市の長であるおとうさんだけで育てられました。
「あの子母親がいないんだって…」
「おまえのおとうさんは市長だなんていいなあ」
彼女は心で全部を受け止めることをやめました。
さもなければ気がくるってどうにかなってしまうほど辛いからです。
そういう過去を思い出すと鋭い痛みが心に走ります。
薄い黄色の瞳はすこしうるみましたが、ダルメルは露店の売り子に声をかけました。
「このへんに黒の子の女性は、住んでいませんか?」
どうしても、探している人がいたのです。
それから数日はフォンテーヌのあらゆる人に同じことを聞きまわっていました。
それは市民の間でも噂になり始めます。
「あの悪魔天使、どうやら黒い子の女を探してるらしいぜ」
「天使と黒い子は宿敵みたいなものだからな、追ってるのだろうか?」
そしてついにティエン市から使者が到着しました。
「ダルメルどの、申し訳ございませんが、すぐさまここを立ち去っていただきます」
城砦の衛兵が突然ダルメルの貴賓室に入ってきてそう告げます。
ティエン市の長からあらたなる使者が到着しました。
それはダルメルとフォンデンブルグ大臣の会見をすべて覆すものでした。
「ダルメルという市長の娘と名乗るものが使節としてフォンテーヌ市に入ったということですが、それはまったく偽物です。ティエン市は黒い森なんて遠方まで軍勢を出したことはないですし、これからもありえないでしょう。速やかにその偽物の使者を捕らえ処罰するべきです。わが市とフォンテーヌ市に永遠の友好を」
つまりはすべて否定することになりました。
「おとうさま…」
ダルメルは感情を表にあらわすことはそうありませんでしたが、この時は衛兵の目にも彼女のショックを感じるとることができました。
薄黄色い瞳が潤みます。
衛兵の言うことにはフォンデンブルグ大臣は慈悲深いお方だ。
逮捕することもできるがそれには及ぶまい。
すべてを察して貴殿を解放する、とダルメルに伝えます。
ダルメルは生きる気力を失くしつつ。
城砦を出て、市場街に向かいました。
もうティエン市に帰ることができなくなったのです。
孤独になったのです。
ダルメルに残された手段は、目的の黒い子の女性を見つけることだけです。
◎◎ ◎◎ ◎◎
サー子とぷーん、だりきゃ、シュートラとフゥアの5人は市場街に来ていました。
鎧の修繕専門店「セアーネの店」に用事があるのです。
セアーネの店といっても市場の露店ですが、最近特に人気のあるお店でした。
そこにサー子のおかあさんが内職でつくった鎧の部品を納品に持っていきがてら、ついでに装備をみにきたのです。
セアーネはとても評判の美人です。
長いウェーブがかった素敵な金の長い髪を後ろでしばり、どんな人にも優しい声をかけます。
また手先がとても器用で美しく上質な防具が人気の秘密です。
「セアーネさん、おかあさんに頼まれて内職の部品をもってきましたよー」
サー子は小箱を袋から出すとゼアーネに渡します。
「あらサー子さん。いつもありがとうございます」
こちらが内職代をもらっているのに、丁寧なものごしでセアーネは声をかけてくれます。
とにかくその上品な雰囲気とたたずまいにみんな魅了されてしまうのです。
「ふふ、ごゆっくりしていってくださいね」
サー子たちは厚手のローブや皮の鎧、革の手甲などをえらびます。
そうしていると色んなお客さんがセアーネに声をかけてきます。
手練れの兵士、引退した老人、女性剣士、エルフ、ドワーフ色々です。
「や、やあ! セアーネ!」
ちょっと上ずった調子ですが、どこかで聞いた声がします。
「ねね、シュー。あれって執行官ドラヴァヒじゃない?」
フゥアの言葉に4人がふとみるとそこには執行官ドラヴァヒさんがいるではありませんか。
「ああ、あの、革の鎧の手入れをお願いしたくて…」
「ふふ。こまめな手入れは大事ですよね」
セアーネは鎧を受け取って、にこっと笑顔で応えます。
「い、いやあ本当セアーネさん、の、鎧は軽くて使い勝手がいい」
役場で見た精悍な青年の姿とは程遠い、緊張した姿がそこにありました。
5人はそっと見守りながらもヒソヒソと話します。
「なぁ…あれぜったい惚れてるよな…?」
だりきゃは音量をおさえて話します。
「あれはぜったいそうです」
ぷーんはジト目ですこし離れたドラヴァヒさんを見て話します。
「あれは…どうなんでしょう」
サー子もじーっと2人を見て問題を提起します。
果たして釣り合っているのかどうか。
「敏腕の執行官ドラヴァヒも、弱点はあるみたいだな」
あきれ気味にだりきゃが言いました。
セアーネとドラヴァヒさんの世間話がひといきついたとき、白い髪のふわっとした白い羽根を下げた女の子がセアーネに話しかけます。
「…このへんに黒い子の女性は、住んでいませんか…?」
あの時の自信にあふれる態度はカケラもありませんでした。
自殺しそうな亡霊のような声でした。
ダルメルです。
そこに居合わせたサー子たち5人はおどろきました。
「黒い子ですか? あら、めずらしいお客様ですわね」
セアーネはスラッとした長身に素敵なほほえみをたたえながら答えます。
「ああっ、これは使節のダルメル様…!」
ドラヴァヒはあせりながらいいました。
「黒い子なら、ちょうどそこにいますわよ?」
サー子とはそういわれる前にすでに。
ダルメルは視線がバッチリ合っていました。
ダルメルは気まずそうに薄く黄色い瞳を向けて言います。
「この方以外にはいますか…?」
「わたしのおかあさんが黒い子だよ、ダルメルさん」
サー子はすぐに言いました。
ダルメルはサー子をまじまじと見つめます。
サー子の綺麗な黒い瞳とダルメルの薄黄色い瞳が交差します。
赤く火照った敏腕役人の執行官ドラヴァヒさんとセアーネを残して。
みんなしてサー子のおうちに向かいます。
ぷーんがききます。
「ねえ、あなたはなんで黒い子を探しているの?」
ダルメルは、軽くうなりましたが答えてはくれませんでした。
「ただいまーっ」
サー子はみんなを連れて帰宅しました。
「あらおかえりなさーい、サー子」
おかあさんはお茶を飲んで待っていましたが、あわてて突然の来客におもてなしの準備をします。
「フォンテーヌにいる黒い子なんて、わたしとおかあさんぐらいだとおもうよ」
サー子はダルメルに目をやりました。
ダルメルとおかあさんは、固まったように見つめあいます。
それが何十秒も続くものですから。
これはただ事ではないと一同が気づきます。
沈黙はありましたが、それを破ったのはサー子のおかあさんです。
「ダルメル…?」




