ダメなサー子の蘇生の義⑬
怒り心頭にすぎると、意識しなくても黒魔法を発動するかのようなオーラがわきます。
それは魔界からの呼び声のような威圧感でした。
「…やっと雇われ先を白状したのです。多くの治安兵が一部始終を聞いています」
サー子は手の内の「奈落」の魔法を眺めながら、言葉を出します。
知らず知らずのうちに、魔法に集中してしまっていました。
バルデス将軍からしたら、それは本能的にそうとう怖いです。
ぷーんがあとを続けます。
「そしてそれからは、再びフォンテーヌ市の旅人が被害にあわないように、治安兵を派遣してもらったわ」
だりきゃもダメ押しします。
「そもそもフォンテーヌ市の正の使節を攻撃してくること自体ありえねえだろ!」
だりきゃもいつのまにか魔法を抑えられていません。
「しかも少女をいたぶるなんて」
だりきゃのまわりの温度が上昇するのがわかります。
気のせいではないです、火のチカラが出ちゃいそうです。
「それを捕虜だと言って売りさばき、その資金はどこにいくとおもう??」
だりきゃはバルデスを睨みつけます。
うおっほん。
フォンデンブルグ大臣は大きいせきばらいをして、場をクールダウンさせました。
「まぁともかくも正の使節を襲撃されてしまっては、の」
バルデスを横目でちらっと見ると、完全に委縮してるようでした。
「そういうわけで奴隷市場もそうだが実際に襲われているわけでな、ダルメルよ」
フォンデンブルグ大臣はうつむいてるダルメルに声をかけます。
「もっとちゃんとした回答をもってくるように、父上に言ってくれるか?」
これでティエン市からの使節との会見は終わりました。
ダルメルはサー子をちらっと見て、宮廷の接待役に宿舎へ案内されて行きました。
◎◎ ◎◎ ◎◎
あかちゃんのサー子。
わぁわぁ泣いています。
となりにもあかちゃんがわぁわぁ泣いています。
2人とも女の子のあかちゃんです。
「よしよし、よしよし」
おかあさんです。
若いころの、おかあさんです。
おかあさんは、最後の魔法が使えます。
手元には「伝説の希少魔法」が来ています。
「あななたちが祝福されますように」
おかあさんは闇のパワーを20以上もためます。
ちょっとありえないほどものすごいエネルギーです。
その圧縮されつつあるものすごいパワーが周りを振動させます。
魔法は爪の先から出ます。
ものすごい闇エネルギーの負荷によって。
十個の爪は弾け飛びます。
鮮血が散らばります。
おかあさんは万感の思いをこめて。
魔法を失う寸前の最後の力を使い切って。
かわいい娘たち2人に祝福の。
言い方によっては、呪いの。
魔法をかけました。
「とこしえの縁 <伝説の希少魔法>」
< 効果:対象のターゲット1体に付与する。一定の人種や職種、土地、場所、組織などと縁し続け、可能な限り関わり続ける。この効果は転生しても永続する >
おかあさんは血統を永遠たらしめんと欲して。
愛する双子の娘たちに「王族との縁」を願ったのです。
「在在諸王土 常与帝具生」
荘厳な光景です。
伝説の呪文が発動したのです。
おかあさんの爪は、もう生えてこなくなりました。
◎◎ ◎◎ ◎◎
ダルメルとのやりとりがあったその夜。
サー子はそんな夢を見たのです。
夢とはおもえない、おもいだすような。
そんな感覚でした。
サー子はあの天使のような、使節のコが気になって仕方ありませんでした。
あの残虐な奴隷狩りを正当化しようとした、悪魔みたいな天使です。
でもあのバルデス将軍と一緒にフォンデンブルグ大臣を失脚させようとしていましたし、やっぱり敵だと言い聞かせます。
あのフォンデンブルグ大臣とバルデス将軍、そして綺麗でかわいい天使のようなダルメルとの会談はその場に居合わせた諸侯たちによって、一夜のうちにフォンテーヌ市じゅうに広められました。
だりきゃは焼き鳥屋のマスターや正義の使者の子供たちにこの話をガンガン広めましたので、役場のお偉方はもちろん場末の子供からおばさん、飲んだくれのおじいちゃんたちまでがこの情報を共有しました。
次の日のフォンテーヌは市場も役場も公衆浴場も定食屋さんでも、この話でもちきりでした。
サー子たちの活躍がまた全市民に伝えられたのと同時に、天使族への強烈な嫌悪感、ティエン市とバルデス将軍に対するバッシングが巻き起こります。
人の口に戸は立てられぬ、ということですね。
その綺麗でかわいい冷酷な天使ことダルメルは、城砦のあてがわれた貴賓室に宿泊しています。
会見の一連の流れを報告するとともに、意見を添えてティエン市へ伝令を飛ばします。
内容はこうです。
< ティエン市の長、わが父へ。わが市が雇用した兵たちはフォンテーヌ市の使節を襲撃していました。
そして返り討ちにあったのです。その際サー子様たちに調査されたのです。
兵士の自白は拷問によるものでしたが、証拠が裏付けられてしまったので少なくとも先にサー子様たちを攻撃してしまったわが市の手落ちになります。
後にフォンテーヌ市軍が治安維持のために兵を派遣したのは正当な行為です。
王都の法律やあらゆる都市の法から判断しますと、わが市は少なくとも金貨10万枚程度の賠償金を払うことは免れられないでしょう。
このうえは素直に過失を認め、これ以上賠償責任が増えるようなことがないように先手をとるべきです。ご賢察のほどを。 >
ダルメルは父から賠償金を支払う旨の指示をフォンテーヌで待つことにします。
ふぅ、とため息をつくと彼女は立ち上がり、フォンテーヌの街へ出かけます。
せっかく来たのですから、この白いレンガの街を散策しようと思いました。
城砦はそれほど複雑なつくりではありませんでした。
外への門を出ようとした時です、衛兵に呼び止められました。
昨日の会見の様子が街中にひろまっていますので、お出かけの際はご注意ください、とのことでした。
反感を買っているのは、ダルメルにはわかっていました。
しかしティエン市の人狩りに対する罰則は法的根拠にはありませんでしたので、彼女にはそれを負担に思ってはいませんでした。
サー子様を襲ってしまった事実も、身分をアピールしなかった側にも問題があります。
また黒い森や緑の子たちが住むところは国境がハッキリと定まっていません。
法廷で争うとしたら、そこまでひどく敗訴するとは思えません。
金貨10万枚ほどで済むはずです。
もし自分が危害を加えられるとしたら、それこそ法がフォンテーヌ市民を裁くでしょう。
城砦を出て丘を下り、役場通りを役場に向かって歩いていきます。
市民たちは遠巻きに陰口を言っているようです。
あれが…ティエン市の奴隷狩りの残酷天使か。
あんな綺麗でかわいい天使が。
とても綺麗な見かけと違う言動が注目をあつめるのでしょうか。
「この残酷天使!」
酔っ払いの男でしょうか。
「北に帰れ人狩り種族!」
正義感の強い子供です。
様々なののしり言葉が浴びせられました。




