ダメなサー子の蘇生の義⑪
ところでシュートラは文字が読めませんでした。
淡い金髪を短くしていてとても細い身体をしているので、幼く見えますが彼女はもう13歳です。
緑の子たちは学校へは行きませんが、森にすべてを学びます。
なので文字を習っていなかったのです。
地元の学校へ習いに行かせたかったのですが、それはできませんでした。
小さい子と一緒にお勉強するのは少しかわいそうですし、なにより宮廷魔導士の戦力として欠かせないメンバーになっていたのです。
それでサー子はひまを見ては少しずつシュートラに文字をおしえます。
フォンテーヌの市立図書館はだれでも利用できるわけでありませんでしたが、宮廷魔導士のサー子たちは利用することができるようになっていました。
文字をおしえるのに自分もこの世界の歴史をより深く学ぼうとしたので教材は歴史の本にします。
サー子は宮廷魔導士の仕事をやりながら、シュートラはおうちのことを手伝いながら学びました。
むかしむかしのことです。
「月の女神ダイアーネ」はエルフ族に世の治世を任せました。
エルフ族は欲がなく知性的で争いを好まないからです。
エルフたちの「月女神の王国」(Empire of Dhiane)は森から外に出て世界を治めました。
森の南、フォンテーヌの港を中心に周辺は栄えました。
同時にいつからか人間が海辺に集落をつくり。貝塚をつくり。港になり。
この大地のほとんどに人間も住み始めました。
フレンク・アルフィード(Kaiser Frenck Alphede)は古代帝国の皇帝の御名です。
そもそもこの世界はエルフの森とフォンテーヌを中心にした月女神の王国とその属国のディノス公国、太陽神ラァの神聖領、イーテ魔法学院領、各種族の都市などから成り立っていました。
フレンク・アルフィードはエルフ族ととても仲が良く、武勇知略にすぐれていました。
エルフの森で月女神の王国のプリンセスを嫁にもらいうけます。
これはエルフ族始まって以来のことでした。
そして彼は月女神の王国の力を借りて、ついにこの大陸全体を制覇し、統一したのです。
「古代大帝国」の誕生です。
この婚姻によって、エルフの森と世界の大帝国は当時二重帝国でした。
これが人間とエルフたちとで共存するにはいちばん都合がよかったのです。
ですが平和は長く訪れませんでした。
属国だったディノス公国と、イーテ魔法学院大学領、そしてラァ神聖領の一斉大反乱がおこり、広すぎた領土は分割されます。
今の王都ポーディッドは、もともとディノス領でした。
ディノスはカウベルシュタイン村の出身です。
カウベル(牛につける鈴)の形をした岩があるので、村の名前はそれがはじまりです。
王都の東にその発祥の村は今も残っていますが、そこからポーディッドの街を作り、南にポーレチケの街を作って、じわじわとその勢力が広がりました。
彼は月女神王国から公爵位を授かりました。
そしてディノス公国が誕生したのです。
そのディノス公爵が各地に激を飛ばして、反乱を起こしたのです。
争いを嫌うエルフ族は人間たちと共生できるものと考えていましたが、そうではありませんでした。
エルフはあらゆる方面から迫害されてしまいます。
各種族の支配者への嫉妬や不満がそうさせたのでしょう。
エルフたちは深い森にこもり結界を張り、争いを拒みました。
そしていつのまにか月女神の王国は、人間の国になってしまったのです。
大反乱でフレンクアルフィードを討ち取った彼は、今のカルベルシュタイン王国を建国しました。
彼はあえて王を置きませんでした。
王国の王は空位とし、神がそれにあたるもの、としたのです。
神を王として自らは公爵の地位におさまり、神を治世の道具にしたのです。
王は神でしたが実質は公爵が王権をふるっています。
この代王システムは伝統としてずっと引き継がれます。
ディノス公爵のすぐれたところは、その政治と外交手腕です。
カルベルシュタイン王国は発展していきました。
ついには今の領地である大陸の東半分を領地にするまでになりました。
数代の公王を経て今のカルベルシュタイン王国の公王はディースになりました。
そしてディース公の息子があの「ゲオルク」です。
カルベルシュタイン王国の「宰相」を務める侯爵です。
こいつが世に出てきてから、王国はひどくなったと、もっぱらの噂です。
「ふぅ」
サー子とシュートラはこの世界の歴史に思いを馳せました。
「でも結局は利権の取り合いの繰り返しなんだね」
サー子はシュートラにそう言うと、浮かない顔になりました。
それを感じたシュートラはサー子に言います。
「みんなが緑の子みたいに森でくらせば、争いなんてなかったのにね」
奴隷狩りで悲惨を見てきた2人です。
「なぜ他人のものを奪ってまで自分を可愛がろうとするのか」なんて、まったくわかりませんでした。
いっぽう、ぷーんとだりきゃも普段の生活をまんきつしました。
2人も宮廷魔導士に昇格していますので、城砦の片隅の部屋で日々魔法の研究をしています。
ぷーんはいろんな魔法にお目にかかることができましたが、興味をひいたのは「水膜」の魔法でした。
「水膜」
< 効果:一つのターゲットに対して水の膜をコーティングする。水の膜は術者のレベルに応じて様々な形に展開することができる >
「これはなにかに使えそう。もっとも、必要なときに手元にきてくれれば、だけど」
ぷーんは魔法が使えるのはいいことだとは思っていましたが、毎回望む魔法が手元に来るわけではないことを不思議に思いました。
「ねえ、だりきゃ姉は毎回ダンパッチ君が手元に来てくれるの?」
だりきゃも毎日一緒に魔法の鍛錬につとめています。
「ああ、なぜかダンパッチ君は毎回引くことができる。不思議だな?」
どの魔法使いもそうでしたが、エネルギー源と魔法と召喚できそうな精霊などはいつもランダムで手元に湧いてくるのです。
「ダンパッチ君は毎回ってゆーか一度に2体来てくれることもある」
へええっ…!っとぷーんはうなりました。
同一の精霊が手元に来たことなんてありませんでしたから、これは興味深かったのです。
いったい同じ精霊や魔法は何個まで手元にくるのでしょうか。
まだまだ魔法はこの人類にとって未知数です。
イーテ魔法王国の「魔法学院」に行けば、その秘密も所蔵されている可能性はありますが他国の人間に公開しているかどうかはわかりません。
「おっ!」
だりきゃは手元にきた精霊に慈しみを込めた瞳で見据えました。
興味をもったぷーんがのぞき込みます。
「はぁぁ?!」
「すごいだろ…?」
だりきゃがどや顔でぷーんに言います。
「これ、ダンパッチ君の上位召喚だ!」
とんでもないダンパッチ君がだりきゃの手元に来るようになったみたいです。
「莫大なエネルギーが必要みたいだけどね」
そういう平穏な暮らしを経て10日ぐらいでしょうか。
平穏な暮らしはずっと続くと思っていましたが、サー子たちのような強力なパーティにはそれを許してもらえるほどこの世界はやさしくありませんでした。
つきつめれば、自分のエゴだけの大人や、欲張りなだけの貴族が原因だったりするのですが。
北の天使族の自治領ティエン市から使節が来訪しました。




