ダメなサー子の蘇生の義①
みなさんこんにちは。
サー子の世界へようこそ。
なるべく気軽によめるように、ひらがなを多用したりたまに漢字にしたり。
あと口語をたいせつにするので、文としてはまちがった表現もあります。
気にしないでそのままよんでくださいね。
サー子は、黒の子。
闇由来の民族は、闇由来の魔法を使うことができます。
でもサー子は、そんなに便利には暮らしていませんでした。
サー子のおうちは、二部屋しかなくて。
おかあさんと二人で街の雑用などをしながらやっと暮らしています。
おかあさんは鎧の部品の一部を手作業で組み上げていく内職を。
サー子は街の酒場へ、おかずを売って歩くお仕事を。
これは学校の先生から紹介してもらったお仕事で、あまりもうけのいいお仕事ではないけれど。
他にやれることもなかったので、学校を出てからはおかずを作る仕事だけやっていました。
今年で14になるサー子は、大根を切って干したものを甘く煮付けて、そう、切り干し大根をそれは大事そうに大きめのボウルによそいます。
「おかーさん、じゃあ行ってくるね!」
つややかな黒髪のツインテールを振り向きざまに、おうちを出て市場街へと向かいます。
二人が住んでいるフォンテーヌ市は、まばゆい光に包まれるという言い伝えのある豊かな貿易都市です。
まだお昼前だけれど住居区から市場街に入っていくにつれて歩く人の数はだんだん多くなっていきます。中心街に来たころには、もう歩くのさえやっとの人混みです。
多くの人々に踏まれてつるつるになった白いレンガ張りの道を転ばないように気を付けて歩いていきます。
そして目的の酒場である「バンダナ亭」の扉を、荷物を抱えたまま小さな身体でんんん…っと肩で押し開けました。
「おや、サー子ちゃんおつかれさまね!」
バンダナ亭のおかみさんが恰幅の良いおおきな体を揺らしながら少し高めの声で、にこやかにねぎらいの声をかけてくれました。店の中はバンダナ亭の名物である「オオハサミガニ」のゆでるにおいが立ち込めます。
街の酒場の人たちは親切です。特になんの特徴もない、サー子の作るおかずをあえて買ってくれているようです。あまり恵まれていない身の上を気の毒に思ってくれているのでしょう。
サー子もそれを身で感じています。支えられて生きているんだなーって。
なんにもできないけれど、そういう暮らしは嫌いではないです。
切り干し大根五合(0.9L)のお代として、銅貨を10枚もらいました。
フォンテーヌ銅貨はなかなかの価値があるもので、銅貨一枚でパンが一斤買えます。
黒の子たちの故郷である「黒い森」の奥で流通している黒銅貨では、一斤も買えないかもしれません。
そしてサー子は価格を交渉する必要はありませんでした。一合の切り干し大根などのお惣菜で銅貨2枚と決められていたからです。焼き魚なら一尾銅2枚、お肉なら一合銅5枚というふうに。
量と価格がしっかりきまっているのも学校が紹介してくれた仕事の素敵なところでした。
ほかの仕事はとっても危険で、一歩都市を離れると盗賊団や敵国の危険にさらされ、魔物たちに襲われることも当たり前のことなのです。
バンダナ亭のおかみさんにお礼を言って、軽くなった荷物に安堵感をおぼえながら市場街へ向かいます。明日のおかずの材料を買わなくっちゃ。
サー子はあえて、市場街でも場所の悪い外れのほうで買い物をします。高品質な野菜や肉を求めてはいません。そこらへんの売り子は、子供たちが多いのです。
このたいへんな世の中で生きていくために、都市のまわりで形成された子供たちのネットワークが、ぼんやりとしてだけどあります。それは自然にできたもの、と言ってもいいでしょう。
やさしさ、という自然の力で。
サー子はゴザを敷いただけの露店で買い物をします。
「サー子ねえちゃん! きょうはなにを買うの?」
「ごぼうとかおいもとか、ちょうだいな」
「サー子ねーちゃん、ベリーも買ってよ!」
「サー子ねえ、キャベツあるよ!」
子供たちも必死で売ろうとしています。
サー子は笑顔をほころばせながら時には厳しく品定めをしながら、でも結局は子供のところで全部の買い物をすませます。
おかあさんの収入もあわせてなんとか二人、と、街のかわいそうでたくましい子供たちは、生活しているのでした。
そんなある日のこと。
「サー子ちゃん! サー子ちゃんは黒い子だったわよね?!」
いつものようにお惣菜を売りに来ているサー子に、バンダナ亭のおかみは突拍子もなくことさらに高い声で言います。
「黒い子」の出身というのは地元の学校組織からの情報で、大体みんなに知られてしまいます。
「実はね、フォンテーヌの港でおばけダコがあばれてるのよ!」
おばけダコは全長百尺ほどもある凶暴なタコで、ヨット級の小舟を壊し、衛兵たちをしめあげ、矢も刀も通さない肉体をもち、バリスタや砲撃などもきかず、そのまま港の船着き場に居ついて暴れているというのです。
フォンテーヌ役場の発表による緊急官報によると、昨日からタコの討伐にあたっていますが、こんな怪物は初めてで対応の仕様もなく、火炎魔法使い、騎士、ハイアーチャー、水魔術師などの総力をあげてもどうしようもないようです。それで、タコなぐりにされたケガ人が多数発生しました。
それよりも深刻なのはフォンテーヌ港の停滞によっておこる経済的損失でした。交易都市フォンテーヌは伊達ではなく、船荷が遅れてしまう損失は一日当たり金貨1000枚はくだらないということです。ちなみに金貨1枚は大工の一日のお給料にあたるぐらいです。
そして何より、バンダナ亭の名物であるオオハサミガニ料理が食べられない!ということが大変なの!と、おかみに一方的に説明されてとまどうサー子でした。
「そんなわけで、黒の魔法が使える人を知らない?!」
おかみの話によると、まずおばけダコに挑んだのは赤い子、火炎魔法使いでした。文字通り「タコ焼き」にしてやるイキオイではあったのですが…。
「衝撃」の魔法も「炎の矢」も「大きめの火炎球」も、いっこうにダメージを与えられません。白い子の騎士も自慢の「銀の白刃」がまるで刃がたたず、緑の子の一流のアーチャーが「必殺のボウガン」を放ってもまるでだめでした。本当にどっちがタコなんだか。
そして大きな期待を背負って「幻影」や「トリック」に腕の立つ青の子の魔術師を駆り出しましたが、どんな幻影にもおびえず、また外の海へ流すよう海の波をあやつる魔術をかけて追い出そうとしても、タコの柔軟さとそもそもが水棲の生き物であるので、まったく受け付けませんでした。「とんでもない残念さ」です。
今は市の軍隊が大きな盾と槍で牽制はしているものの、手も足も出ないまま、ずっと時間ばかりが過ぎ去り、ついには「黒魔導士」を探す、ということになりました。
「えっ、黒魔導士を!」
サー子は驚きと怯えを隠せません。
「おかあさんでも、どこでも、どこかにいないかしら?!」
物理的にやっつけられない時は、水の魔術師に!
そして水の魔術師で追い払えないものは、もう、その生命を直接消してしまう魔法、つまり黒の魔導士の出番というわけです!
大きな交易都市、フォンテーヌは大体8万人が活動しているといわれます。それでも「黒い森」が故郷の「黒い子」たちは、なかなか自分たちの故郷から外に出ようとしません。
サー子はとても特別な成り行きでフォンテーヌに住んでいるのでここにいますが他に黒い子を知りませんし、ましてや腕の立つ黒魔導士なんてまったくあてもありませんし、おそらくそうはいないでしょう。
とにかくこのままだと、フォンテーヌの被害は計り知れなく、王都から討伐軍を待つにしても、その頃にはフォンテーヌ市の財政が破たんしてしまいます。なによりも、バンダナ亭の経営が一週間ももちません!
ついにフォンテーヌ市は「非常事態宣言」のドラを鳴らしました。
ジャーン! ジャーン!
サー子は困りました。
なんでか。
サー子は、黒魔法が使えるからです。
※わたしたちの街、フォンテーヌ市です。