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化け猫  作者: 志摩
あったかいご飯と悲しい話
4/25

出会いと出会い

「お姉さん」



 声をかけられはっとした。

 目の前には小さな男の子がいた。しゃがみこんで、不思議そうに私を見ている。

 薄手の長袖と半ズボン、少し寒そうだ。裾の端から見える膝が擦りむいて血がにじんでいた。


「こんなところで何してるの?」


 やっぱり私は不審者に見えたのだろうか。それにしても、声をかけてはいけないよ、僕。

 心の中で悲しみながら、それを隠し男の子に向き合った。


「友達を待っているんだ、猫なんだけど」


 あたりに大人の姿はなく、この子は一人のよう。

 先の家族もいつの間にかいなくなっていた。

 この近所に住んでいるのだろうか。一人で出歩くには少々幼すぎる。


「もしかして、黒い猫?」

「そうだね、おしりにもようがあるの」

 その言葉に、表情を明るくすると、私の隣に座った。どうやらうちの猫はこの男の子と遊び仲間らしい。

「僕も待ってるの、いつもここに来てるよね」

「そうなの、いつも家から出ていなくなるから。探しに来るの」

 大変なんだよ、そう答える私に男の子は俯向く。



「いいなあ、探しに来てくれる人がいるなんて」



 この年端もいかない子からは想像できない重い言葉、暗い顔つき。自分は探しに来てもらえない、そう告げている。


「僕、家族の人は? 一人で遊びに来てるの?」

 そう問わずにはいられない雰囲気だった。

「僕には何もないよ。ずっとここでひとりさ」

 地面を見つめ、感情もなく淡々と言っている。何かおかしい、そう感じさせる。


 これはこれは、なんとも難しい子と出会ってしまったものだ。いかがしたものか、家を訪ねるわけにもうちに連れて帰る訳にもいかない。

 話を聞くにも、なんとも踏み込みにくい問題である。

 ふと何かの気配を感じ辺りを見ると、少し手前の方にしんちゃんがいた。


「猫ちゃん!」


 男の子はとても嬉しそうに笑った。

 手を伸ばして触れようとすると、華麗に一回転を決め、私の方へと寄ってきた。

 しんちゃんは何故だか私の服を噛み、何処かへ引っ張ろうとしていて。


「今日はお姉さんと遊びたいみたいだね」


 男の子は寂しそうな顔をして私の前に手を伸ばした。しんちゃんはおとなしく撫でられていた。


「お姉さんたちもう何処かへ遊びに行きなよ」


 男の子はしんちゃんから手を放し、立ち上がった。

 見下ろされる状態の私は、男の子よりも少し小さい。


 一緒に遊ぼうよ、


 その一言が言い出せない。




 男の子はとても暗い顔をしていた。影になっているせいもある、しかしそれだけではないだろう。

 お前が邪魔をしている、そう言われているようなここにいて欲しくないという強いまなざし。

「ここは僕の場所だから駄目」

 くすくすと小さく笑い声をあげる。

 いつも遊んでいる相手を取られて拗ねている。そんな表情ではない、もっと強い深い嫉妬。誤って触れたなら、壊れて砕け散ってしまいそうな危うさ。

 この場にいてはいけない、本能がそう警鐘を鳴らす。

 しんちゃんは先に走って行ってしまう。

 その後を追いかけたいのに、正体のわからない恐怖が私を襲い、身体が震えて止まらない。この場にこの子と二人でいてはいけない。心ではそう思っていても、身動きが取れない。

「お姉さん、ほら早く行ってよ」

 しんちゃんが走り去った方向を指差し、私を見つめていた。不安定に視線を彷徨わせ、何かを探っているような眼差し。

 喉に力が入らず、声が出ない。金縛りのようだった。

 不意に左腕が捕まれ、吊られるように立ち上がった。


「行くぞ」



 顔を上げた先には見知らぬ男の顔があった。連れて行かれる、しかしこの場にもいたくない。どうしたものか、身体が震えて思うように動けない。今はこのままここを立ち去るべきだろう。

 引きずられるように男について行った。

 何か冷たい視線を感じて振り返ると、男の子はいなくなっていた。ただどこからともなく見られている、その感覚があった。



「何で動かないんだ」



 腕を引く男が私を気にしていた。

 色白で赤みがかった髪、彫りの深い顔で日本人ではないように見える。

「猫を探していて、それで」

 やっとの事で、それだけを絞り出した。

 なんとか声が出た程度の、聞き取りにくい情けないものだった。

 男は溜息をつき、私を睨みつけた。

 そして首元を一瞥すると、私の腕を離した。

「それ、肌身離さず持っていろ」

 それだけ言って、先へ歩いて行ってしまう。

 この人には恐怖を感じないのはどうしてだろう。懐かしい、覚えのあるような匂い。先に怖い思いをしたせいだろうか。初めて会った人に無理やり連れて行かれたら普通は恐怖するはずだろうに。

 それにしても何故このネックレスを見たのだろう。

 その男は、引っ張ってくれる力を失い立ち止まる私をおいてどんどん離れていく。

 小さくなる背になんと声かけたら良いか。

「あの、貴方は」

 返事はない、力のない声はもう聞こえないほど遠い。

 どうして助けてくれたのだろう。

 見ず知らずの男、でもこのネックレスを見て肌身離さず持っていろと言った。母の形見であるこのネックレスを。



 まんまるのクリスタル、中には水が入っているらしくそれが時々揺れているような気がする。三センチ程のもので、小さな頃はダイヤモンドと勝手に言っていた。

 写真で見る母はいつもこれをつけていた。

 私も小さな頃から持たされていたもので、自分でも持っていたかった。母が付いていてくれるような気がしたから。



  


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