真紅の話
「これはとある少年と猫の話だ」
そう言って、真紅は長い話を始めた。
「今回の仕事は、家の目の前の川からたくさんの猫の死体が流れてくる、というある相談が入ったからスタートしたものだった。
毎回同じ場所に猫の死体が流れ着き、それが何度か起きた時に、気味が悪くなって、それをよく見て供養をしていたある女性が、知人の寺に行ったそうだ。
相談して、川に来てもらってお経を読んでもらって一安心。と思っていたが、また死体が流れ着く。
事態は改善はしなかった。むしろ以前より頻度が上がったように感じたそうだ。
うちの事務所でこの件が引き受けられて、最初は川の近くに猫の集まりやすい餌場があるだけで、流れ着くのは川の流れのせい。
なんともない現象かもしれないと思っていた。
そのうちまた猫が死んでいると連絡があり、実際に見に行くと、死んでしまった猫の魂がそうではないと言っていた。
猫の魂がまだ強く残っていたから、その記憶を辿ってみたんだが、記憶から見えたものから確認できたのはまだ幼い少年の姿だった。
そして少年のを含めたその川の調査が本格的に始まった。」
少年はいつもひとりだった。
彼は両親に先立たれ、親戚に引き取られ生活していた。
両親は彼を無視しているような、あまりよくない家庭環境だったそうだ。育児放棄、その類のものだ。彼はいつもひとりで、ご飯も満足にもらえず、保育園に行ったこともなく、友達もいなくて。外に行っても家にいても、両親からはほとんど声をかけてもらえなかった。
そんな彼の両親はある日、自殺してしまった。
彼は出かける二人について行った、連れていかれたのではなく、置いていかれたがついて行ったのだ。そして家のそばにあった大きな吊橋から飛び降りた二人を、後ろから見ていた。
両親の自殺は何が原因か、そこまでは調べることができなかった。ただ生活は苦しかったようだ。
彼はその様を目の前で見ていたことだけは確か。そして死ぬ間際、とても幸せそうに笑っていたと、そう言っていたようだ。
ある猫の記憶を辿った時、俺が見た記憶だ。
彼は殺されることさえなかった。一緒に死ぬ、家族にさえ入れられていなかった。
僕を置いていなくなってしまった、そう感じたのかもしれない。
それが分かった時点であの川で事件が起きていないか調べてみると、あったんだ。
ある男の子の事件がね。
彼の両親は駆け落ちして田舎を捨ててきた若人だった。お金がなく、子どもは産まずに二人きりで生きて行く予定だったようだ。働き口では、そう周囲に言っていたことを職場の人間が覚えていた。彼らもまた孤独だったようだ。
ひとり残った彼を引き取ったのは故郷の親戚の家で、温かく迎えてもらえれば、少年は何かが変わったのかもしれない。
しかし、彼は不吉だと煙たがられ、疎まれ、避けられた。その家にいても、やはり孤独だった。
そんな時に彼は一匹の猫に会う。
公園のある場所で、ひとりで眠っている猫に。
少年は猫を見て、自分を思い浮かべたんだ。この子はひとり、僕もひとり。
そして何度かその猫に会って遊ぶうちに、思うようになったんだろう。少年は猫を抱え、抱きしめて言ったんだ。
『怖くないよ、二人一緒に死ねば、永遠に一緒にいられるから』
それは彼の両親がよく言っていた台詞なのかもしれない。
誰かと共に死ぬことが幸福である。両親がそうであったように。その関係性が彼の中で絶対的なものだったんだろう。両親はそれで幸せになった、笑顔で行ってしまった。だから自分もそうなるのだと。
そして彼は新しい自分の家の目の前の川に飛び込んだ、小さな橋の上から。いつもはさほど深くはないその川も、降り続いた雨の影響で増水していた。飛び込むのを見た人もいなかった。
猫だけは今回の依頼主の家の付近で見つかった。少年も別の場所で見つかって事故として処理されている。しかし魂が何度も死に続けていた。何度も一緒に死んでくれる人を探していたんだ。




