再開
「お姉さん、こんにちは」
はっと目覚めて顔を起こす。どうやら丸くなって横になって寝ていたようで、しゃがみこむように男の子が覗き込んでいた。以前ここで会った彼だった。
いい大人が眠りこけていけなんとも恥ずかしい。
「こんにちは、この前はごめんね」
何と声をかけるべきか良い案が浮かばず、言えたのはそんな事だけだった。
「いいよ、お姉さんには心配してくれる人がいるんだね」
「え? あー。別に……」
「僕にはいないから」
食い気味な返事、私は答えを言う暇もなかった。笑顔のままの男の子だが、どうにも棘のある言い方だ。そういえば、彼を迎えに来る誰かを一度も見たことがない。
可哀相な子、一瞬そう思ってしまう。そして一人で家にいる自分、置いていかれ何をしたらいいのかわからない自分自身の姿も思い浮かぶ。
「私もね、昔ひとりぼっちで。寂しかったの。君と一緒だよ」
少しの間があって、何か変な事を言ったのだろうかと首を傾げる。
しかし男の子は笑っていた、急に涙を流して、可愛らしい顔で笑っていた。
しかし突然大きな口を開けて、声を出して笑いはじめた。私のその一言を待っていたかのように、嬉しそうな様子の男の子を不思議と受け入れ、なんだやっぱり普通の年相応の男の子じゃないかと安心した。
私の手をとって立つように引っ張り、男の子は歩き出す。私はただそれについて行った。
「お姉さん、幸せになりたいよね?」
声が出なかった。答える必要もない。私はこの子と一緒だから。この子供と一緒に行かなければならないんだ。それ以外の考えは浮かばなかった。
「じゃあ僕と一緒に行こうね」
手を引かれ、一緒に歩いた。
このままついていけばいい。大丈夫、もう何度「も(・・・)こうしてきた。
ふと立ち止まり、差し出されたもう片方の手を取った瞬間、景色が歪み空が灰色の雨模様になった。
私はなぜかこの情景を知っていた。
ーーそう何度も見ているのだ、夢の中で。
私がいつもいつも、眠れないほどにずっと見ていた夢。
いつも起きると覚えていないのだが、今日は眠っていないから、気がついたのかもしれない。
またここにいる、この子と一緒に。
「行こう、お姉さん」
導かれるままに進むと、そこはいつの間にか川辺で、やはり見たことのある場所だった。
この川の向こうに行けばいいんだいつもの通りに。
そう一歩ずつ踏み出して。
川に足を踏み入れてみると、肌寒く感じるのに水は妙な温かさがあった。
怖くない、きっと大丈夫。優しく笑っている男の子が手を引っ張っていくので、私はされるがまま進んでいく。
ふと、誰かに呼ばれた気がして歩みが止まる。
そのせいで私を引っ張る少年も動きを止めた。
「誰かに呼ばれてる?」
「気のせいだよ、きっと」
少年が答えるが、どうにも気になってしまう。
すぎんと頭が痛み、咄嗟に手で頭の痛んだところを触わろうとしたため男の子とつないでいた手が離れた。
ーーあかり……
「…この声は、だれ? お母さん?」
後ろを振り返ると、雨が降っていた景色が歪み始め、いろんなものが歪み始めた。
歪みが広がり、至る所から穴のように景色が変わり、ここではないどこかの、その先が透けて見えた。
「行くな!」
ぐにゃりと渦巻くような歪みから男の声がした。聞き覚えのない声なのに、とても耳に残る。ずっと私を呼んでいた気がした。
『だめ!』
後ろで男の子が叫び、私の腰に抱きつき、引っ張ろうとする。訳が分からなくなってきょろきょろしているとまた頭痛がして、動けなくなる。
空間の歪みのような渦が少しずつ広がってきて、すっと長い腕が伸びてくる。何かの割れるような音がして、渦がはじけた。
そこには大きな穴が空いていて、誰か人が出てきた。
「……誰?」
「あかり!」
私に飛びかかるかのように突進してきたかと思うと、ふわっと抱きしめられた。
「間に合った!」




