ある日のことだった
…
雨が降っていた。
とても冷たい、寒い雨だった。
毎日、毎日、雨が降って止んでを繰り返し、身体がどうにも重かった。
散歩に出て、川沿いの花が咲いている場所へと向かっていたのだ。このところ憂鬱な日が続くから、花が見たい気分だった、ただそれだけだ。
名も知らない花が咲いている場所に着いた頃、ぱらぱらと降り出した雨が、止むことなく降り続くことになった。まさかこんなに降り続くとは思わなかったんだ。
雨宿りしようにも、辺りには何もなくて。
初めは濡れたままでもいいだろうと、思うくらいの雨だったのだ。
帰ろうとも思わなかった。
もう、潮時だと。
行く当てもなく、助けてくれる人も知らずに、何をすることもできなかった。
寒い。
身体が芯まで冷えて、凍えてしまうほどに。
震えが止まらず、手先、足先は感覚がなくっていく。
さむい。
誰も助けてくれない。
もう長い時間独りで座り込んでいるのに、手をのべてくれる人はいない。
何も見ていないというように、通り過ぎていく。
ただの景色と同じなのだ。背景、あってもなくても同じもの。
どちらにとっても、きっとそう。
もう直ぐ、この流れる景色も終わる。
私の瞳が光を閉ざすから。
なんとも言えない人生だった。
ただ流れているだけだった。
家族がいるうちは、少しは幸せだったのかもしれない。
一番下の子どもだったから、甘やかされた。しがらみなく自由きままに生きてきた。私自身家庭を持つことなく、いろいろなところを歩いてきた。たくさんの仲間とも出会った。それでも時は残酷で一人また一人と消えていった。
いつしか一人でいることが多くなった。
最期まで、ひとりだった。
このまま何事もなく、ただ世界を眺めながら消えていきたい。
そうすればきっと、可もなく不可もない人生だった。
その一言に尽きる人生だった。
そのはずだった。
ただ消えていくはずだったのに。