プロローグ
桜が散る4月の頃、私の恋も散った。
それは何でもない、彼からの電話。
何でもない、いつもの会話。
何でもない、いつもの休日。
何でもなく終わって欲しかった彼からの電話だった。
「お前には悪い思いばっかりさせて、何も良いことなんかしてやれなっかった。
だから、もう、別れよう。」
桜の花びらがまだ少し寒い春風に乗って、舞っている。
「なんで………。
良い事なんかしてもらえなくても、一緒に居るだけで、いいのに。何で自分だけで決めちゃうのよ…。」
上ずった声が部屋に響く。あの時、私の気持ちが少しでも彼には伝わったのだろうか…。
「ごめん。もう決めたことだから……。」
彼と過ごした今までは一体何だったんだろう。泣くことしかできず、私はただ、ただ次の言葉を待つことしか出来なかった。
「ごめん…。
…もう、切るから。それじゃ……、ばいばい…。」
聴き慣れた声の、聞き慣れたバイバイが、私の胸の深くに突き刺さった。
もう永遠に会えなくなるという気持ちが、涙に変わってとめどなく溢れて来る。
何も答えられない訳ではないし、むしろ言いたいことは山ほどあるのに、感情が邪魔しているせいで嗚咽が止まらない。
私が泣いている間、彼はずっと電話を切らずにいてくれた。私の為にしてくれた彼からの最後の優しさだった。