#15
「なんで、イルザ探偵は俺に何も言わないで勝手に人間界へ行っちゃうんですかー?」
「仕方ないだろう。情報収集のためだから」
「俺も行きたかったなぁ……人間界の下見……」
ヴィンセントはイルザから言われるまではそのことは知らなかった。
しかし、彼女は「情報収集のために人間界に行った」と言っているので、探偵としての業務で行ったのだから仕方ないと思い、彼は食い下がる。
「話してもらえますか?」
「大人しく聞いていろよ?」
「分かりました」
†
それは魔界から人間界に降り立つ数日くらい前の話である。
イルザが降り立った場所は今彼女らが学生生活を送っている白を基調とした清潔感が漂う空間となっている教室だ。
彼女はその教室のドアノブを握り、捻るようにして開ける。
「つ、爪が引っかかっている……」
当時、イルザの長く伸ばされた黒い爪(注・悪魔時の爪の色は黒。現在は短く切られており、人間に近い自然な爪の色になっている)が引っ掛かる。
ようやく教室に入ることができた彼女の第一声は「随分と散らかっている部屋だな………」と表情を崩さずに言い、窓際の席に歩み寄った。
その時間帯はまだ人の姿が見当たらないため、今のイルザにとっては救いの時間。
ある机には2つの鞄と1つの携帯電話、あちこちの机にはその席に座っている人間が使っているだろうとされる教科書やノート、ルーズリーフなどが置いてある。
彼女はその一番前の席で止まり、机の上に置いてある白い携帯電話を見つけ、初めて見る携帯電話を触り始めた。
電話機能はもちろんのこと、メール機能などといった機能面に関しては抜群に凄いものである。
「ほう。これは面白い機械だな………」
イルザは様々な機能があることに感動しつつ、本当ならば見てはいけないものであろうとされる保存メールのフォルダを勇気を振り絞って開いてみた。
「こ、これは………」
その文面は『誰でもいいからエリザベスを殺して』と遺書らしき文面がつづられており、彼女はエリザベスとは誰なのかと疑問に思い、首を傾げながら見ている。
「御意。私とヴィンセントの手でやれることはやってみるしかないな……」
そして、彼女はその携帯電話をポケットに入れ、魔界へ帰還したのであった。
†
「と、いうわけだ」
「イルザ探偵が行った時は誰もいない時間帯だったんですね……」
「誰かいたらすぐに不審者扱いだからな」
「ところでそのメグミカ・ダレスの携帯電話が証拠品だということは分かったんですが、アルバート・ミカエリスの証拠品は……?」
「彼の証拠となるものは残念ながら何もなかった」
「そうでしたか……」
イルザの話を聞いたヴィンセントはメグミカのようにアルバートのところに証拠品があるか期待していたが、証拠品がなかったと聞いて肩を落とすのであった。
2017/11/24 本投稿




