とある冒険者の一幕
「ふー、快便快便♪」
俺は誰に言うでもなく1人呟いた。
視線の先には先ほど自分で産み落とした茶色な固体。
そう、俺は、一般にウンコ、ウンチなどとよばれる物体を木の棒でつつきながら眺めていた。
ブツと顔の距離はおよそ30エクデル、日本の単位にして30センチほどだ。
しかし、臭くない。こんな近いのに全く臭わない。むしろ香ばしいお花の香りがするまでもある。
ナゼか?理由は簡単。
まずここは、年がら年中北からそよ風が吹くことで有名な「風の草原」。
そこらじゅうにルーン文字の刻まれた石碑やら、様々な色の実をつけた大木やらが立ち並んでいる。
そして、ウンコから見た俺は北北東側にしゃがんでいる。
導き出される答えは、一つ。
そよ風がウンコの臭いを全て風下に運んでいってくれているのだ。
ふははは、近くで見るウンコはこんなに興味深いものか。今ならウンコを見るとついツンツクしてしまうアラレちゃんの気持ちさえ理解できる。
……あ、ウンコに昨日食ったモロットコーンが入
ってる。これ、消化されないんだな。
消化されない特徴を利用して、こんど生け捕りにしたウインドワイバーンあたりに大量に食わせてみるか。もはやコーン以外の何物でも無いウンコが出てくるかも。
そんなバカなことを考え始めたときだった。
「キャーーーーー!!!」
耳をつんざくような甲高い悲鳴が草原に響いた。
とっさに声の方角を振り返る。
しかし、そこにはところどころ苔に侵食された石壁があるのみで、誰もいない。おそらく、この遺跡を挟んだ向こう側に声の主はいるのだろう。
そう考えたあとの行動は早かった。
草原にいるシルフの手を借り、全身に風の加護を掛けると、思い切り走り出す。
最短距離で着くために暗い遺跡の中を音速で移動する。
しかし、声が届くほどの距離といっても、間にあるのは遺跡。数秒で到着するような場所ではなかった。
風を切りながら考える。
(くそっ、風の草原は∀ランク以上の冒険者じゃないと入れないはずなのに……!!
いったい声の主はどんなバカ野郎だ!)
しかしいくら悪態をついても仕方がない。
より一層足に力を込めた時、再びあの叫び声が響いた。
(くそっ! 間に合え、間に合え!うおおおおおおおおお!!!!)
暗い遺跡の内部に差し込んだ一筋の光を目印に、全速力で草原に飛び出した。
そして肝心の声の主はというと……!?
「……はっ?」
思わず、安堵とも落胆とも取れる声が漏れた。
それも仕方のないことだろう。
何故なら、目の前には現れたのは────
「キャーーー! なにすんのよー!やめてよー!」
「ぐるる」
その綺麗な顔を涙と鼻水でグチャグチャにしたドレスの少女と、少女にツノを擦り付ける──つまり求愛行動をとる白いユニコーンだったのである。