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生きた証  作者: SnowEst
2/2

居場所

元居た所は、日本という国で

私はそこで、退屈な高校生活を送っていた。

私自身、冷めていたからかもしれない

何かに夢中になれるものが無く

言葉や趣味、それらは全て周りに合わせて行動していたため

自分から始めたいことがなく、本当にしたいことが分からなかった。


いつも通り学校からまっすぐ帰宅する。

階段を登り自分の部屋へ入り荷物を置く

一人には広すぎる部屋、

布団と小さいテーブルしかないからだ。

物を置きたく無いわけではない、

必要ないから置かないのである。

時計が、17時を表示する。

青かった空は、ゆっくりとオレンジ色に支配されてゆく。

雲の量や形、空の色合い、星の見え方、通る人たち

いつ見ても違う景色を映してくれるこの窓は、唯一私のお気に入りだ。


食事を作りにリビングに行く

両親はいる。だけど、帰ってくるのはいつも遅い。

家族なのに顔を合わす機会なんて、ほとんど無い。

両親は嫌いではない、話す機会がないわけでもない。

こんな生活をしていて、話す内容がないから

喋っても会話に成り立たない、勝手にそう思っている。

料理はできるが、好んでしたいとは思わない。

生きるために必要だからしている、ただそれだけ。

淡々とした食事を取り、シャワーを浴び、部屋へと戻る。

疲れてるわけではないが私はいつも日が沈むと同時に就寝する。


いつからだろう、私はここにいた。

目が覚めたらというよりも「気がついたら」が正しいのかもしれない。

すでに景色が広がっていたため、寝ていたという感覚が無かったのだ。

最初は夢かと思った、普通ではありえないそんな状態なのに、どうしてこんなにも感覚がリアルなのだろうか。

髪をやさしく揺らす風、夜なので少し肌寒い。

建物だらけの街では考えられない澄んだ空気の匂い。

部屋で眠りについてたはずだが、今は外にいる。

思わず自分の身の回りを確認する。

服は着ている、いつも寝るときに着ている白いワンピースだ。

靴は何故か見覚えのないサンダルを履いていた。

私は、不思議な体験で困惑していたが、

すぐにそんなことはどうでもよくなった。


最初は暗かった周りがだんだん丸い月の明かりで照らされていく。

一面藍色に染まっている空に弱くも美しく輝く星たち、青白い光に照らされ揺れる緑、その光景に圧倒される。

近くに川があるようだ、その流れる音は聞くだけで水が透き通っているように思える。

どうやらここは、草原のようだ、遠く方に温かいオレンジ色の明かりで灯されている街が見える。

不安・恐怖といった感情はあるが、

それ以上に今の現実に高揚している自分がいた。

気がつけば私の足は街へ向かっている。


月明かりが照らす夜の草原

風がとても心地いい

揺れる草の音と川の流れる音だけが聞こえてくる

私の心はこの現実を楽しんでいた。


街に近づいてきた

建物は煉瓦造り、花で装飾されている

落ち着いた明かりを灯すランプが

至るところに設置されていて

まるで童話のような雰囲気であった。


門の前まで歩いていくと

入り口の方から声をかけられる

聞き慣れない言葉で何を言ってるのかわからない。

とりあえず、日本語では無いのはわかる。


その人が近づいてきた、私の目は次第にその人を認識し

一瞬思考が停止する。

完全に私は理解してしまった。

『ここは私の居た世界ではない』

目の前にいるのは、人間ではないのである。私の居た世界でいう『オオカミ』に近かった。

確かに二足歩行をしていて服も来ている、言語を発しているが顔つきは人間で見た目は狩人みたいだ。


困惑している私をみたオオカミのヒトは、言葉が通じてないと分かったのか、手を動かしジェスチャーをしている。

その姿は、見た目とのギャップで少し可愛く見えた。

どうやら少しここで待て、とのことだ。

わけがわからないまま私は頷き了承した。

オオカミのヒトは、街の方へ戻っていった。


少し時間がたつとさっきのオオカミのヒトが誰かを連れてきた

『フクロウ』に似たヒトだった。学者に似た服装をしている。

フクロウのヒトの足元の近くには小柄な生き物がいた。

その生き物は、見た目はウサギに近く

額に青い宝石のようなものがついていて

触覚のようなものが首筋から伸びている。

色は白色の半透明で目を凝らすと奥の風景が透けて見える。

フクロウのヒトは、その生き物となにか喋ってるようだ。

すると、私達の周りを青いオーラのようなものが包みこむ。

私はさらに現実離れした光景に見入っていった。


「私の言葉はわかりますか?」

とつぜん、優しい男の人の様な声が聞こえた。

声の方をみると、フクロウのヒトだった。

いきなり聞き覚えのある言葉が聞こえてきて驚いた。

「はい、わかります」試しに喋ってみる。

「それなら良かった」返事が返ってきた。


私達を包んでいたオーラのようなものが小さくなていき

フクロウのヒトがもつペンダントの中に入っていった。

フクロウのヒトが私の目の前まで近づいてきて首にペンダントをかけてくれる。

「このペンダントをかけていてください、私達の言葉と

あなたの言葉を互いに理解できるようにしてくれるものです。」


考えることを放棄し私はもう現状を受け入れていた。


「ありがとうございます」お礼を言うと

フクロウの人は微笑みながら去っていった。

「お互い聞きたい事があるだろうし、宿まで案内するよ」

今度は低めの男の人の声が聞こえた、オオカミの人だ。

とりあえず「お願いします」と伝えると、

オオカミの人はゆっくりと歩き始めた。

案内してくれる彼はどこか逞しく、本当はもっと早く歩けるのに、私の歩く速度と合わしてくるている。


街の中に入るとそこにはたくさんの人がいた。

見た目は私の世界でいう『動物』であったり

私と同じ『人間』であったり

人間と動物の中間であったり

人によってその、比率は違うみたいだ。

中には、さっき見た半透明の生き物もいた。


しばらく歩いていたら、オオカミの人が立ち止まる。

どうやら宿に着いたみたいだ。

目の前に見えるその建物は、赤い三角屋根に木窓、入り口はスイングドアになっている。

いかにも洋風な宿といった印象である。

中に入ると、まるで酒場のように丸テーブルや丸椅子が置かれており、カウンターにはいろんな瓶が置かれていて奥にはキッチンが見えた。お客さんや店主らしき人は見当たらなかった。


オオカミの人が窓辺のテーブルへと歩いていく。

「ほら、こっちに来て座りな」少し周りを気にしてるようだった。

言われたとおり椅子に座る。

すると階段からおりてきた、ふくよかな婦人がこちらに気付いてやってくる。

「おや、あんたがここに来るなんて珍しいじゃないかい、しかも、女の子をつれて!」

ふくよかな婦人は、笑いながらオオカミの人に話しかける。

「そういうんじゃねぇ、仕事だよ。後でまた、頼みごとがある、今は空けてくれないか」

やれやれといった、表情からは何かを諦めたかのような印象を受けた。

「はいよ、わたしゃ洗い物してるから、用があったら呼んでね、そこの娘もゆっくりしていきなさいね」

ふくよかな婦人は、にこやかに私の方を見て言ったあと去っていった。

オオカミの人はまるで、災難が去ったかのように深いため息をつき、私に話しかけてきた。

「俺の名前は、テゴー、この街で番人のようなことをしている。君は?」

そういえば、自己紹介をしてなかったことに気づく

「私は みつき といいます。ここは、一体どこですか?」

テゴーさんは、少し困った表情をし、何かを考え始めた。

一字一句、言葉を選んでいるように見えた。

テゴーさんが、口を開く。

「君が居た世界ではないってことだけは、確かだよ。」

『居た世界ではない』その言葉に私は動揺しなかった、そんなことはもう知っていたからだ、なんとなくもう戻れないそんな気がしていた。テゴーさんは、私の表情を見ながら続けて話し始める。

「ここはね、パーヴェニリと呼ばれている世界で、この大陸はノクトって呼ばれているんだ。そして、この街はニゲルっていう街だよ。ノクトは『賢者 ルナ』の管理下にあり、朝が来ない大陸なんだ」


言っていることは分かる、でも賢者という存在が、どうして大陸と直結しているのかわからなかった。

たぶん、聞いても今は理解しきれないのはわかっている。

でも、今の私は知らない知識との出会いが、とても楽しかった。

「賢者ってなんですか?」

私は自分の知らない事が返ってくることを期待していた。


「さっき門の前で見た半透明の生き物が精霊。人と契約し人と生きることで知識を得ていく。契約した人が息を引き取ると、その精霊がその人の魂を取り込み、新たな精霊へと転生する。それを繰り返し知識を深めていくと、その知識にあった体を手に入れ、賢者へと生まれ変わる。」


期待通りの答えが返ってきた。

まるで、知識を欲するかのように私は次々と質問をした。


分かったことは、この地の長は夜の中でも快適に生きていく術を闇の精霊シェイド達と共に研究していたらしく、転生、長の一族と契約を繰り返しの末、月という体を手に入れ、賢者ルナになったとのこと。ルナの魔力によって、夜の中でも植物が育ち、人や生き物が暮らせる環境になったのだが、あまりにも魔力が強く、永遠の夜が訪れたのだという。

そしてフクロウの人がくれたペンダントは空気を司る精霊エアの力で私や相手の声、空気の振動を変換して翻訳してくれているとのことである。


テゴーさんは、少し呆れつつも尋ねてくる

「みつきは、これから、どうするんだ。行く宛は何もないんだろう?」

そうである、帰る場所を失った私には、どこにも行く宛がない。

困っている私を見たテゴーさんは、やっぱりこう来たかという表情になり奥へ声をかける


「クレーデ、来てくれ話がある」

さっきのふくよかな婦人は、クレーデさんというらしい。

ほい、来た!と奥からクレーデさんがやってくる。

「なんのようだい、どうせ、その娘のために部屋を用意してくれないか?ってことだろう、構わないよ!」

自信満々にクレーデさんが答える。


「話が早くて助かる、こいつは帰る所がないんだ、この街で暮らしていけるように助けてやってくれ」

いつのまにか、話がどんどん進んでいく

どうしていいかわからず思わず声が出る

「えっと、あの」


クレーデさんが優しく話しかけてくれる。

「大丈夫、あんたが独り立ちできるまで、面倒を見てあげるから、安心なさい!ただし、昼間はお店の手伝いをして貰うからね!」


見ず知らずの私にここまでしてくれる人たちは、生まれて初めてだったせいか、思わず涙が流れる。

心の奥底で感じていた恐怖や不安、『これからどうしよう』という、考えは消えていった。

クレーデさんが優しく抱きしめてれる。

今まで感じたことがない安心感である。

「みつきといいます。よろしくお願いします」

そう伝えると、今度はテゴーさんが話しかけてくれる。

「今日、時間ができたら、ファキオのとこにいってみたらどうだ?ファキオってのは今日連れてきた奴の事だ。

魔法とかそういうのに興味があるなら、行ってみると良い経験になると思うぞ。場所は、ここに来る前に通った、噴水のある広場の所で、いろんな形のランプをつけてある緑屋根の店だ。」


それはとても興味がある。空想上のものかと思っていた魔法についていろいろ知ることができるのは、わくわくする。

しかし、私は大事なことに気がついた。

ずっと夜なのでは、時間がわからないのである。


「ありがとうございます、是非行ってみます。

ただ、この大陸はずっと夜だってことは、どうやって、時間を確認すればいいのですか?」


クレーデさんが答えてくれる。


「今は朝だからランプで、街全体を明るくしているんだよ。夜になると外のランプを全部消して、外を歩くときはランプを手に持って歩く。細かい時間は、時計で確認してるよ。」

そういうと、クレーデさんは、カウンターの引き出しから、懐中時計を取り出してきた。

「私は使わないから、あんたが持っておきなさい。」 


私は懐中時計を受け取る。

「何から何まで、ありがとうございます。」

お礼を言うと、テゴーさんが立ち上がり

「そんじゃ、俺は戻るわ、ファキオにも伝えておく、何か困ったことがあったら、門のとこの家に来い、出来ることなら助けてやるから」

そういって、テゴーさんは、去っていった。


「それじゃあ、みつき、部屋に案内するよ」

クレーデさんはそう言って部屋に案内してくれた。


階段を登り2 階の奥、部屋を開けるとそこは、

8畳くらいの間取りで、一番先に目に映ったのは、大きなベッドである。綿菓子が入っているかのようなその掛け布団は、絶対にフカフカであると確信できる。

次に木窓の目の前にあるその机は、開いた木窓のその空間は夜空を切り取り飾っているかのように、溶け込んでいる。近くのランプは、机上を照らす。その光景は、とても浪漫を感じられるものであった。


「気に入ってくれたみたいだね。いろいろあったみたいだし、着替えや食事の準備ができたら呼んであげるから、少し寝てはどうだい?」

クレーデさんの、その言葉はとても嬉しかった。

確かに突然の出来事で少し疲れていた。

「ありがとうございます、少し寝ることにします。」

クレーデさんの、言葉にしたがい私は、少し眠ることにした。


「おやすみなさい」

布団の中に潜った私は、まるで溶けるかのように眠りに落ちていった。


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