約束
瑠衣さんがこの事件を引き起こし、大量殺人を図った。なぜ彼女がこんなことを始めたのか、その理由は何なのか、まだ謎に包まれている。
夜、私は色々考えたが、やはりあのおじいさんの言う通りにするしかない、そう思い寝床についた。
…………………
「んん…」
またあの夢だった。いつもと同じ場所で目覚める。しかし今日は周りにまた人が屯っている。
「ナオトさん」
ギンギンが真っ先に声を掛けてきた。
「やあギンギン。人たくさんいるね…」
「わかってるよ、これは」
あの巨人が来るんだよね
「はい…今回は鬼ごっこですかね」
おじいちゃんが言っていた、私達はもう用済みだと…その言葉が正しければ、私達は今夜殺されることになる。
「自分が打開策を練ります。なのですぐ着いて来てください」
「う、うん」
あとは…
「西行さん、うっちー!」
「ん?」
「あ、篠田さん」
西行さんとうっちーとも合流、しかし西行さんの傍には
「おいおい、ここはどこなんだい?」
「あの、西行さんその人は…?」
「ああ、この人は俺の行きつけのラーメン屋の店主だ。なんかいたから連れてきた」
彼も被害者なのか、そりゃそうか。
「えっとこれで…。ナオトさん、内田さん、西行さん…あれ?ルイさんいない?まあ、でもコレはまた最初みたいになっちゃうのかな。だったらすぐにココにいる人たちに声かけないとだよね?」
「ちょっと待って、そういえば一番最初にこの夢に入る前に死なないように気をつけろって言われなかった?」
「あ、へんなおっちゃんに言われたけど?」
「うっちーも、おまわりさんも?変なおっちゃんに言われた?」
「俺のコンビニにも来ましたよ、やっぱりあの人が原因なんですかね…」
「あー確かラーメン屋で…」
やっぱり。
「聞きたかったのはそれだけ。ありがとね」
「…?」
「さ、とりあえず周りの人にも同じことを聞かないと…?」
外から何か聞こえた。
「ギンギン…」
「わかってるよ、斧を引きずる音だね…身構えておこう」
その音はゆっくりとこちらに近づいてきて、扉の前でピタリと止まった。
「来るよ…」
ゆっくりと扉が開き、やつが現れた。それはまた声にならない雄叫びを上げると共に、周りの人々を虐殺し始めた。
「みんな、この隙にこっちへ!」
急いでこの部屋を飛び出る。やつが虐殺を終えるまで、早くて3分、遅くて6分くらいか?それまでに辿り着かないと!
「ギンギン、書斎にあった鍵持って来てくれない?できれば早く!」
「う、うん。わかったよ」
そういい書斎に向かうギンギン。私は倉庫に向かい、ランタンを手に取る。
「使えるかわかんねーけど、護身用に持っておくか」
「西行さん、猟銃使えるの?」
「拳銃なら使えるんだが、やつと戦えそうなものこれぐらいしかないしな」
倉庫から猟銃を手に取る西行さん。
「それにしてもお前さん、途端に仕切るようになっちまって、何か知ってるのか?」
「それはこれからわかるよ」
「そーかい」
刑事だからなのか、やたら冷静さをみせている。ラーメン屋の店主なんて、ビビリまくりなのに。そんな会話が終わった丁度そのころ、ギンギンもやってきた。
「ほら、鍵あったよ」
「ありがとうギンギン、さぁ、こっち!」
「……」
2階に駆け上がり、おじいちゃん鍵を使い部屋Cの鍵を開ける。下の階からまだ悲鳴は聞こえる、もう少し時間はありそうだ。
「開けるよ」
扉を開け中を見ると、見た目は他の部屋とあまり変わりない。全員で部屋の中に入りじっくり部屋を観察する。おじいちゃんの言っていた他と違うところ…
「あ」
扉のすぐ隣に見覚えのないホックがあった。
「これかな…」
そのホックにランタンを掛けると「カチャ」という音が聞こえた。
「え、なに?ナオトさん何したの?」
「これであのおっちゃんの言ってたことは出来たはずだけど…」
「あのおっちゃんって?」
「みんなが最初に出会ったあのおっちゃん!」
「???」
辺りを見渡しても、変わっているところなどどこもなかった。
「あれ…?」
「ねぇ!とにかく早く隠れるか何かしないとでっかい奴がきちゃうよ!ナオトさん、これ何かおこるの?隠れるところ探さないと!」
辺りをキョロキョロし始めるギンギン。隠れる場所を探しているらしいんだけど、なのになぜ机の引き出しに手を…
「おや?」
「何かあったの⁉︎」
「いや、日記?を見つけたんだ。読んでみるね」
なんの躊躇もなく読み始めるギンギン。流石なのか、さっきまでの慌てようはどこへ…
「じゃあ読むよ」
『とあるメイドの日記
⚪︎月⚪︎日
館主様から君は非常に優れたメイドだと言われた。館主様の専属にしてくれるみたい!
⚪︎月⚪︎日
なぜだろう、他のメイドの目が冷たく感じた。でも気にせず私は館主様に仕えた。その夜、私の部屋の扉が傷つけられていた。
⚪︎月⚪︎日(日が少し飛ぶ)
他のメイドから酷いイジメを受ける日々にはもう耐えられない。館主様に相談したら、いつでも来なさいと鍵を貰った。そして私は館主様の部屋であるものを見つけた。
⚪︎月⚪︎日(一週間後)
この館のメイドと館主を使った実験は大成功。私には魔術の才能があったのね…ああ、人を殺めるのって、快感だわ…
そうだ、ちょっとした実験をまた行ってみるとしましょう…ふふふ…』
「……‼︎⁉︎こ、これ…!」
ギンギンが指差していたそこには”東雲瑠衣”と名前が記入されていた。
「瑠衣って、ルイさんのこと⁉︎確か書斎で読んだ本にも”東”から始まるメイドがいたって言ってたけど…」
「多分、本人だね」
「…!ナオトさんなにか知ってるの⁉︎」
「昨日聞いた。あのルイさんの本名も東雲瑠衣だったよ。それに現実で何か知ってそうなおじーちゃんに夢で会う方法を教えてもらったんだ。ギンギン、怪しい目で見ていたけど、何か作動する音がしたから今はそれに縋るしかないんだ」
「あ、だからナオトさんはテキパキ行動してたのか」
「うん、でもここから先はどうすれば…」
ふと、机の下に目をやる。
「…なんだろう?」
机の下の床だけ、少し浮いているような。触ってみるとそれが外れるのがわかった。
「ここ、何か開くみたいだよ。入ってみよう」
「ナオトさん!先どうぞ!ほら!店主もうっちーも西行さんも早く早く!」
「…お前、怖がりすぎだろ」
「ううっ!西行さんも言わないで!」
全く、隠れ場所が見つかった瞬間賑やかな人達だ…中はハシゴが降りており、それを降る。カンカンという音が静かな空間に響き渡る。一番下に辿り着くと、少し広く、暗い空間が広がっており、そこで待っていたのは…
「よう」
「……じじぃ」
「よう警察官!久しぶりじゃねぇか、へへっ」
あのおじいちゃんが待っていた。
「やぁ、約束通り会いに来たよ」
「ようねーちゃん生きてたか、へへっ」
死んでたまるかっての。
「えっ!ナオトさんって女性だったんですか⁉︎」
「……」
スルーしてもらいたかった。
「おおっとこうしちゃいられねぇ、みんなよく辿り着いたな。お前たちはもう黒幕の正体を知ったと思う。ところでこの中に現実の屋敷に行ったやついるだろ?ねーちゃんと、クッキーくれたにーさん」
「え、なんで知ってるの?誰にも言ってないし見つかってないと思ってたのに…」
「俺が知らねぇことなんてねーんだよ、へへっ。いいか、信じられねぇかもしれねぇが、ここは東雲瑠衣の作り出した世界。そして奴は自分の欲望を満たすためにこうやって人を殺しているわけさ。で、なぜ黒幕がお前たちを泳がせたのかは俺にもわからねぇが、お前たちはもう用済みになったらしいな。やつもお前たちを見つけ次第 殺しにかかるだろう」
「なんでそんなことを…?あの瑠衣さんが!」
「ごちゃごちゃ言ってる暇はねぇ。いいかよく聞け、なにがあっても起きたら一切睡眠をとるんじゃないぞ!寝たら死ぬと思え。そして黒幕、やつは現実のあの屋敷にいるだろう。奴を倒すんだ、わかったな」
「あの人影やっぱりそうだったんだ。一応確認しとくけど、じーちゃんお名前は?そして何を根拠に僕達はじーちゃんを信じたらいいんだい?」
「俺かい?俺にゃ名前なんてねぇよ、へへっ。根拠ねぇ、お前たちだって被害者みたいに死にたくないだろ?へへっ」
「はは。やっぱりまともに答えてくれないとは思ったけどね。ま、直感を頼るしかないかな」
……
「じゃあ一つだけ。彼女を倒せって言ったけど、それは殺せってこと?彼女を救えるならそっちの方が良いんだけど。これでも元々は医療に携わってた人間だからね」
「ねーちゃんいい勘してるじゃねぇか…ひとつ教えておこう。奴を殺すも殺さないも結末は一緒だ。もっとも無難なのは、気絶させて刑務所行きにさせちまうとかだな、へへっ」
「そう、それなら良いんだ。でも彼女を殺さず気絶させただけでこの夢は終わるのかな。生きてる限り夢は見るものだろう?」
「それなら、やつが館主部屋で見つけたという、あるものを破壊すればいい。現地に行けば一目でわかるだろうよ、へへっ」
「そう。じゃあ今日のこの夢から覚めれたら彼女に会いに行かないとね。ご飯の約束もしてるんだ」
「ねーちゃん、その願い叶うといいな、へへっ。じゃあな、諸君の健闘を祈る、ほいっと」
そう言っておじいちゃんが手を叩くと、私達はまた目眩のようなものを覚え、意識が遠のいてきた。
「頑張れよねぇちゃん…」
気を失い、しばらく眠ったような感覚を覚え、しばらくして目が覚める
「……」
そこは私の家の寝室だった。
「やるしか、ないよね…」
すぐに身支度をし、家を出る。この悪夢を早く終わらせて、瑠衣さんとの約束、守らないとね…