謎の男
「あ、ナオトさんこっちこっち」
「やぁ」
どういうことか、ルイさんから探索の同行願いがきた。私が今朝あの夢から目を覚ますと、ルイさんから連絡が入っていたのだ。
『昨日の館に見覚えがあったので同行できませんか?』という内容。
別に拒否する理由無いし、かえっていい情報収集にもなりそうだったので、もちろん。とOKを出した。
「あ、ギンさんこっちでは初めまして」
「やーやーどうもどうも」
そして何故だろう、ギンギンも同行することになってしまったわけで…
『そう、じゃあ行こうかな。昼過ぎでもいい?』
『はい、大丈夫です』
『じゃあ、それで』
『こんにちわ。昨晩たぶん夢の中でご一緒したギンです。その館に行くの、一緒につれってってもらってもよいですか?』
『あ、ギンさんどうも。よかったらギンさんも同行しませんか?』
『お、反応からするにやっぱり夢は一緒だったみたいですね。じゃ行きますねヾ(=^▽^=)ノよろしくです!』
ということになったのである。
どこから嗅ぎつけたのかわからないけど、ギンギンも謎が多い人物であると私は思った。
「ところで、あの屋敷に見覚えがあるって言ってたけど、どこにあるか知ってるの?」
「ええ、確か山中にあった気がするの。早速だけど、行きましょう」
先陣を斬るルイさん。山中に屋敷があるって気づいてる人いるのかな?
「時にルイさん。お屋敷の場所ご存知ってことはこの辺りだと結構有名な場所なのですか?」
歩きながらギンギンがルイさんに問う。
「私はこの前登山中にあそこを見つけたんです。夢の中のところにすごく似てると思ったのでもしかしたらと」
「ってことは中に入ったことがあるんだ?」
「興味本位で」
「興味本位はよくわかる!ぼくもよく色んなところ見に行くからね〜」
何だろう、ギンギンが言うと違和感全くない気がする。
「私のギンさんのイメージはそんな感じなので違和感全くないですね」
「ええー!」
ルイさんも同じことを思っていたみたい。そんな愉快な雑談をしながら、山路をトコトコ歩いていく。対して険しい山でもなく、緩やかな道なので対して疲れることもなく、目的の場所に辿り着いたようだ。
「ここよ」
ルイさんが立ち止まった先には『立入禁止』と書かれた表札が掛けられていた。
「え、立ち入り禁止ってかいてあるよ。入っていいの?」
「見つからなきゃいいんじゃない?」
ふとルイさんの方へ目線を送ると、少しばかり不安な表情をしてるように見えたので
「怖くない?大丈夫?」と声を掛けてみた。
「ええ、大丈夫。さて、行きましょう」
そう言い、表情を潜り抜け中に入るルイさん。私達も、それに続いた。
「ほえ~、2人は仲良しなんだね」
やらしい感じでギンさんが言葉を掛ける。
「ギンギンとももう仲良しでしょー」
棒読みで返答。
「なんかちょっと悲しい気分だよ…」
「ははっ」
ギンギン撃破!
立入禁止の奥の道は、草でお生い茂った不気味な道。そのところどころの草が、誰かに踏まれたのであろう、不自然に倒れていた。
「着いたわ。ここよ」
目的地に到着。目の前には、巨大な屋敷が佇んでいた。
「入口はすぐそこよ。開けるわよ」
そういって扉の取っ手に手を掛けるルイさん。ゆっくりと開けようとするが…
「あら?開かない…」
鍵がかかっていたのであろう、開かなかったようだ。
「ルイさん、最初に来たときはどうだったの?」
「最初来た時はすんなり入れたのだけど、おかしいな…」
「前に来たのはいつ?」
「三ヶ月ほど前になるの。誰かがこの屋敷引き取ったのかしら…」
「どうなんだろ、でも誰かの出入りがありそうだね。さっきの道も轍がちょっとできてたからね~」
やっぱり誰かが引き取ったのかな?
「ごめんなさい、無駄足になってしまったみたいで…」
「いや、気にすることないんじゃないかな。その間に誰か来たっていう可能性があると分かったんだし」
そう言いつつも、私は屋敷全体に目を凝らす。とても高いところに窓があるけど、登れる高さじゃない…
「裏口とか他にも入れそうなところ探してみようか?あと屋敷の周りを調べればちょっとは情報が手に入るかもよ」
「そうだね、裏口あるか探してみようか」
そう言ってギンギンと二人で屋敷を一周、裏口はなかった。
「やっぱり入れそうなところないみたいだね〜」
「ホント、私から言い出したのに…ごめんなさい。よかったら時間もあれなので、お食事ご一緒しませんか?」
「お、いいね!僕は行くよ」
「ごめんルイさん。自分はこれから行くところがあるから、また今度ご一緒願うよ」
「そう、わかったわ。じゃあギンさん、ご一緒に行きましょう。ナオトさん、また夢で会えたら会いましょう」
「じゃあね〜」
山を下っていく二人に手を振り見送る。私は、どうしても確認したかったことがあったのだ。まずは、麓にあったお土産屋さんから話を聞くか。
…………………
「こんばんは、ここのお店で一番売れてるお菓子ってどれかな?」
麓のお土産屋さんに足を運んだ私は、情報収集へ。
「いらっしゃい、うちじゃこのお饅頭が一番人気なんだよ」
性格の良さそうなおじいさんが店番をしていた。
「そうなんだー、じゃあこれ頂こうかな。実は前にお世話になった人に渡そうとおもっててさぁ。美味しいの食べて貰いたいよね」
「そうかいそうかい、そりゃいいことだ。あ、880円頂くよ」
「はーい。あ、そうだ。おじいちゃん知ってる?山の立入禁止の表札の向こうにある館のこと」
千円を渡しながら、おじいちゃんに問うた。
「ああ知ってるとも、あそこの館主さんとは仲良しだったからねぇ…」
話が早そうだ。
「そうなんだ!ねぇ、その館の主の人の名前わかる?大分昔に山で迷子になった時にお世話になったんだけど、その時に名前聞きそびれちゃってさ。久しぶりにこの町に来たから会いに行こうと思ったんだけど名前知らないと流石にマズイかなぁって」
「名前ねぇ…舘田さんだったかなぁ、でも彼とは連絡がいつからか取れなくなってしまってねぇ…」
「えっ、そうなの?じゃあ今行っても居ないのかなぁ?昔のことだけどお礼しときたかったんだけど」
ちょっと悲しそうなフリをしながら探ってみる。
「私もあそこにはもう行って無いんだよ、力になってあげられなくてごめんねぇ…」
「ううん、ありがとう。あ、そうだ良かったらその舘田さんのこと教えてよ。会えたらおじいちゃんのこととか話が出来るかもしれないし、仲良しだったんでしょ?おじいちゃん」
「舘田さんはね、30年ほど前にこっちに越してきたんだよ。私が40くらいの時だったかなぁ…猟師だったらしく、猟銃を幾つか持ってたかなぁ…どうも宝くじが当たったとかいって、山路付近に屋敷を立ててひっそり暮らすっていってたかなぁ…メイドも雇うって言ってたねぇ、5人くらいだったかな。彼凄い優しい性格だったから、誰にでも好かれてたよ」
メイド…
「あれ、おじいちゃんメイドさんのこと知ってるの?5人だけ知ってるってことはずっと舘田さんに仕えてたんだね。その5人の特徴とかわかる?顔とか名前とか…」
「最近だと、小柄な人がいたかなぁ。小さかったから印象に残ってたよ」
「小柄な人かぁ~、自分よりちっちゃいのかな?可愛いっぽいね」
「そうだねぇ…可愛らしい人もいたよ」
「そっか。ありがとう、色々お話ししてもらえて」
「いいんだよ。私もお話しは大好きだから、また来なさい」
「ありがとう、じゃあ」
これは思わぬ情報収集ができた。謎が少しずつ確信へ近づいている気がする。さて、次に行くところは…
…………………
続けて私が足を運んだのは、昨日訪れた町の病院。患者の様子がどうなったのか知りたくて仕方がなかったのだ。
「こんにち…は?」
中は昨日より一層忙しそうな雰囲気だった。
「あの、椎医師お願いできますか?」
闇雲に受付に頼んでみる。
「少々お待ちください…」
来れればいいんだけど…
「すぐ来るようですので、もう少々お待ちください」
心の声でも聞こえたのかな?とりあえずよかった。しばらくして慌ただしく椎医師が駆けつけてきた。
「やあ篠田クン…」
「何があったんですか?」
単刀直入に聞いてみると
「どうしたもこうしたも、昨日の患者が全員亡くなったんだよ」
「本当ですか?死因は?」
「死因は心臓麻痺みたいでね…今忙しいんだよ」
「心臓麻痺…すいませんありがとうございました。お忙しい中態々来てもらって」
「篠田クン、君はこのことで何か知ってるのかい?」
「詳しいことは、また後ほど…では」
そう言って病院を後にする。
今回の探索でわかったこと、それは夢の中で殺されると現実でも死ぬ。屋敷は実在し、誰かが行き来した形跡があった。館主の住んでいた跡地。と言ったところであろうか。一体、誰が何のためにこんなことを始めたのだろうか?
「その前に、あのメイドの名前が気になるんだよなぁ…ちょっと不安だけど…」
一応ルイさんに
『そう言えばかえって気付いたけど、まだお互い本名言ってなかったよね。篠田ナオトって言うんだ。よろしく』
とTwitterのダイレクトメッセージを送っておいた。まさかとは思うけど、そんなことを考えながら歩いていると、ドンっ
「おおっと、わりぃな、にーさん!」
年寄りのおじいさんと肩がぶつかってしまった。
「いやいや、こっちこそごめんね。大丈夫だった?」
私の不注意だったから素直に謝った。
「ん?」
おじいさんがゆっくりこっちを振り向いて
「にーさん…いやねーちゃんか、俺のことわかるのかい?」
はい?
「えっ、どういうことだい?」
「ふむ、理由はわからねぇが、どうやらねーちゃんも被害者みたいだな…変な夢みるだろ、毎日?」
何だ?何か知ってるのかこの人…?
「おじいさん、あの夢のこと何か知ってるの?」
「一つ確認させてくれ、ねーちゃんこの町に来た時最初に何と接触した?」
「人面犬だよ。信じてくれるかどうかは別だけど。おじーちゃん、どういうこと?何か知っているのかい?」
「人面犬、か…どうやらねーちゃん、あんただけはとんでもねぇことになっちまったようだな」
「ちょっと、きちんと説明してくれないと分からないんだけど。どういうこと?」
「ねーちゃんよく聞け、今回の事件、あんたがここに来てからの行動全ては黒幕の手中、思うつぼだったわけだ。あんたは今まで黒幕に踊らされてただけだ」
「黒幕?それって夢の中で笑ってたあの女の声の主のこと?」
「そうだ。考えてみろ、なんで初日の夢の中、あんたらだけ殺されなかったか」
「生かされるだけの理由があったってことだよね…おじいさん、私はこれから何をすればいい?」
「幸いこのことは黒幕には知り渡ってないようだな…教えてやろう」
私の中で、今会話をしているおじいさんが奇妙な老人に見えて仕方がなかった。そしておじいさんの話に耳を傾ける。
「今日夢の世界へ行ったら、書斎で見つけた鍵を使って部屋Cを開けるんだ。そのあと、ランプを照らさず所定の位置に引っ掛ける、そしたら夢の中で俺に会える。ただし、今夜はヤツが来る。多分お前らも用済みになったから殺されるだろう。だから死ぬな、絶対に生きて俺に会いに来い。わかったな?」
「わかった。出来る限り頑張ってみる。おじーちゃん、ありがとう。あ、でもランプは所定の場所って、部屋Cの何処に掛けたらいい?すぐにわかるかな?」
「他の部屋と違うものがあるはずだ。そこに引っ掛けるんだ」
「それは言ってみないと分からないか…わかった。おじーちゃんありがとう。私、篠田ナオトって言うよ。おじーちゃん名前は?」
「俺に名前なんてねぇよ。ねーちゃん、最後に言っておくぜ…」
そのあと、おじいさんから驚愕の言葉が発せられた。
「………そっか。ありがとう。ちょっと胸の中の違和感が取れたよ」
なんとなくわかってはいたけど、流石に驚きを隠せないな…
「じゃあなねーさん、夢で会おうぜ…」
そう言って老人は姿を消した。丁度その時、ルイさんからダイレクトメッセージが返ってきた。
『篠田ナオトさんですね、私の名前は東雲瑠衣です』
……
『ルイさんの瑠衣ってそう書くんだね。綺麗な名前だ。今日、また変な夢を見るかもしれないけど明日また戻って来れたら今日行けなかったご飯行こうか。今日のお詫びもかねて奢らせてよ』
『ありがとうございます。明日が、来るといいですね…』
『来させてみせるよ。じゃあ、また夢の中で』
真実という名の運命は、理不尽な結末を創り出そうとしていた。