黒き静観者たち
「ほう・・・君があの無限一閃を使った異世界人か。思ってたよりも若いんだね~」
俺を上から下まで舐めるように見渡している黒い短髪の男が、そう口にした。あまりのガン見に苦笑いをしながら、一歩引いてしまうのはおかしくないよね?
「あまりジロジロ見ないであげてください。彼、ドン引きですよ」
「おっとすまない。あの伝説に聞く能力の使い手がなんの予見もなしに、急に現れたのだから驚きもするさ。しかもそれがこちらの世界ではなく、向こうの世界の住人なのだから余計ね」
いきなりのガン見で気にするのが遅れたが、この人は一体何者なんだろう・・・。かなりのイケメンではあるが、ナルシスト臭がしなくもない。
「紹介が遅れたわね。この方はセルジュ・バリアント隊長よ。所属は王都なんだけど、ワイバーン襲撃に際して援軍を要請してたんだけど到着するのが遅れちゃってたみたいなの」
「王都からこの港町に来る途中、どうしてか大きな岩に街道が塞がれていてね。こちらに来るのに手間取ってしまったんだよ。別ルートで行くと、さらに時間をとられてしまうから、岩をどかすのが一番だと考えたんだ。いや~、参ったよ!」
セルジュは腰に手を当て、声を出して笑った。暢気というかなんというか、ホントに隊長なのかと疑ってしまう。
「それじゃあ俺は支部の方へ顔を出さないといけないから行ってくるよ」
「ミリア。隊長に付いて行ってあげて」
「了解しました、では参りましょう。こちらへどうぞ」
ミリアはセルジュに連れたって歩きだす。さすが副隊長、慣れた動きである。だけど二人の距離感は、何か別のものを感じさせてならないのだが気のせいだろうか?
「あら、あなたも鈍くはないみたいね?」
「まあ普通の隊長、副隊長ッて感じがしないだけだよ。なんかもっと距離が近いというか何というか――」
「そりゃそうよ、二人は幼なじみってやつだもの。昔からすごく仲がいいみたいよ?イクスになる時も一緒だったみたいだしね」
え?何それ、ギャルゲー?
「さてとあなたの扱いが決まるまで、この辺りの片付けや要救助者の救護よ。ちゃんと手伝いなさいよね」
「お、おう・・・」
俺はミツキの言葉に若干、渋りつつも周辺の後片付けを手伝うことにした。断る理由も別にないし、人手が足りないなら仕方のないことだ。それよりも気になるのはこの後の処遇についてだ。なにやらとんでも能力を使ってしまったみたいだし、今後の自分がどうなっていくのかだけが不安だ。
俺・・・無事に帰れるのかねぇ?
◇◆◇◆◇◆◇
「それで本当はどうだったの?」
「ん?なんのことだ?」
ミリアは表情を変えず、静かに問いかける。そんな彼女の様子に小さく笑みを浮かべながら、セルジュは返事をする。
「相変わらずね。一体何年の付き合いだと思ってるの?あんな簡単な嘘、分からないと思ってた?あの街道の周辺は見渡しのいい平原よ?大きな岩が転がってることなんてまずないわ。人為的に運んでくるか、岩が自分で歩かない限りね・・・」
「うーん、やっぱりお前にはバレちまうか~。さすが俺の幼なじみ!」
「茶化さないで。それで実際には何があったの?」
セルジュはしばらく黙ったあと、ゆっくりと話し始める。
「結界が張られてた・・・それも上位のやつだ。並みの術者には扱えない代物がな。幸い俺の隊には優秀なイクスがいたから解除することが出来た・・・」
さきほどまでとはうって変わり、真剣な表情になる。今回の襲撃には探るべきところが多く、現段階では何とも言い難い。
「それにしてもこの周辺には生息していないワイバーンの出現や自分達の縄張り以外には、滅多に現れることのないゴブリン種の攻撃。そして結界の存在。多分、この港町に続く街道はすべて結界が張られていたと考えて間違いないだろうな。調査しなけりゃならないことが大量だ。異世界少年のこともあるし、これから大変だね~」
セルジュは真剣な表情から、また元の暢気な状態へと戻っていた。ミリアはその変わりように呆れつつも小さく微笑んでみせる。
二人は並び立ち、町の様子を見つつ支部のほうへと歩を進めていった。
◇◆◇◆◇◆◇
町の外、戦闘が行われた場所を複数の影が見下ろしていた。
「うむ、ワイバーンでは落としきれなかったか。結界まで張ったというのに情けないことだ」
「だが打撃は与えられたんだろ?もう一回、攻撃を仕掛けたらいいじゃねぇか!なんなら俺がやってやるぜ?」
「落ちつきなよ。暴れたいのは分かるけど、今は厄介なイクスがいるんだから手を出さないほうがいいと思うけど?」
黒のロングコートに燃えるような赤毛の男が、背負っていた巨大な大剣に手をやりながら言い放つ。
しかしそれを緑髪の少年が制止した。
「セルジュ・バリアント・・・王都で最強といわれている八英騎士の一人。確かにあんたじゃ分が悪いわね」
「疲弊しているところを狙うなど好かんな・・・。戦うならば正々堂々とするべきだ」
綺麗な金髪にポニーテール姿の女と黒鎧にコートを羽織った大男も少なからず、自分の言葉を口にする。
「それぞれ言いたいことはあるだろうが、今日のところは引くとしよう。八英騎士の存在もそうだが、まさか無限一閃を使う者が現れるとは想定外だ。しばらくは奴らの動向を見るのが先決だろう」
「ちっ!分かったよ!帰ればいいんだろ、帰れば!じゃあな、先に行くぜ!」
「僕も戻ってあーそぼっと!」
「私も失礼するわ」
「ふむ・・・」
集団のリーダーと思しき、眼帯をつけた男がそういうと四人は一人ずつ姿を消していった。
(無限一閃の復活か・・・。あの異世界人がこれからどのような道を選ぶのか、じっくり見させてもらおう・・・我が主のためにもな――)
男は不敵な笑みを浮かべつつ、姿を消した――。