目覚める一閃
(なんか分かんねぇけど、今なら・・・やれる!)
手に持っている刀をしっかりと握り、横に振りぬいた。魔物までの距離は数十メートル――にも関わらずその攻撃はワイバーンへと命中する。
「あんなに離れているのに攻撃が当たってる!?一体、どうして・・・」
信じられないといった表情で見ているミツキに対して、ミリアがゆっくりと口を開いた。
「聞いたことがあります・・・。なんでも古い書物の中でしか語られていないという特殊な能力。どんなに距離が離れていようが攻撃できる力――」
それを聞いてミツキはふとあることを思い出す。遠い昔に存在した一人の剣聖の伝説――。
「でもあれは伝説上の話しであって、現実に起こるなんてありえない。少なくとも私が知るかぎりでは使える者はいないわよ!?」
「ですがそれしか考えられません。彼が使っているラグナは刀剣型――。伝説でもそうです・・・」
――その剣聖、刀剣型のラグナを操り敵を逃すことはあらず。それは何故か?
「それは・・・その者の視界届く限り、全てが攻撃の範囲内であったからである・・・」
その者、ただ一人が使えたという唯一無二の能力。
〝無限一閃 エリアル・ブレイド〟
見えない刃は容赦なくワイバーンに襲いかかる。鱗に纏われているため刃は通りづらいがダメージは確実に負わせている。
「やっぱ届いてるみたいだな。これなら戦闘経験がないとはいえ、チキン戦法でなんとかなる!」
我ながら格好の付かない戦法だ。ゲームとかでやられたらイライラするな・・・。だけど今の俺には一番いいやり方だ。
「そろそろ終了といかせてもらいたいね・・・」
「えぇ、終わらせてあげるわ!」
いつの間にか横にはミツキとミリアの姿があった。俺が攻撃している間に前に出てきたみたいだ。この二人が隣にいると安心できるな。
「あなたは攻撃を続けてちょうだい!私とミリアで一気に攻める!」
「ああ、分かった。そろそろ体力も限界なんでね、早いとこ頼むぜ」
「お任せください!」
二人はそう口にした後、自らのラグナを構える。しばらくするとラグナが光を発し、同時に一つの言葉を口にした。イクスが本気モードに入るときの言葉だ。
「「覚醒!」」
――ラグナの能力、それを呼び覚ますための発動キー。主に呼応して手にある武器は真の姿を見せる。
ミツキのラグナは何者をも凍てつかせる冷気が刀身を覆っている。それは彼女の近くにいるだけで身震いするほどの寒さを感じる。
そしてミリアのラグナは肉眼でも見て取れるほどの稲妻が槍全体をを走っていた。触れると間違いなく感電して死に至るだろう。
「私は左に回るから、ミリアは右から相手の側面に回りこんで!そして同時にワイバーン目掛けて突っ込むの!一撃で仕留めるわよ!!」
「承知しました!あなたはこの場から攻撃して気を引いてください!」
「剣を振るだけの簡単なお仕事です!ってことだろ?ここまでやっちまったんだ、最後まで付き合ってやるよ!」
「話が早くて助かるわ。それじゃあ・・・GO!!」
ミツキとミリアは一斉に走り出す。二人を援護するため、俺は手に持つ風の剣を再び振り下ろす。いま自分が出せる渾身の力を振り絞って――。
その一刀はワイバーンの硬い表皮を抉り取った。強烈な斬撃をくらい、魔物は今までで一番の咆哮を上げてふらついた。
「今だーーーーーー!!!!」
俺の声に応え、ミツキとミリアはラグナを構えて、ワイバーンへと双方から突っ込んでいった。
「「はぁあああああああああーーーーーーーーー!!!」」
二人の一撃が見事にワイバーンを貫いた。凍てつく冷気と眩い稲妻が魔物の体内を駆け巡る。
そしてしばらくの後、その巨体は地響きと共に倒れ、ワイバーンは絶命した――。