威圧の咆哮
「なんで街のすぐ外に魔物が!?この辺りには凶暴な種は生息してないはずなのに!?」
ミツキは自分の部隊を率いて、他部隊とともに魔物の鎮圧に手をつくしている。
基本的に街の周辺には魔物の姿は見られないのだが、今回はいつもと様子が違っていた。その違いとは〝敵勢の多さ〟である。
「何故このような場所にゴブリンが?こいつらは森や渓谷などでしか姿をみせないやつらです。サハギン種や水棲のリザードマンなら理解は出来ますが、水が苦手な連中がこのような場所に現れるとは・・・」
部隊の副隊長であるミリア・バレスタインは冷静ながらも、目の前の魔物たちを難しい顔をしながら見渡している。
ゴブリンは一体だけなら大した力はない。しかし数が集まれば別である。人間と同様で互いに連携をとり、それぞれの力不足を補っている。
なのでゴブリンの集落などには近づかないようにしなければならない。しかしながら弱点も単純で、水には弱いという習性がある。
それゆえにまさか海に面している街が、ゴブリンに襲われるとは予想していなかったため、イクス側にも士気に影響がでてしまっているのだ。
「押されてる・・・どうすれば・・・」
ミツキがそう言った瞬間、一体のゴブリンが飛びかかってきた。手に持っている大鉈を振りかぶり奇声をあげる。
「隊長!」
ギラリと光る刃がミツキに襲いかかる。咄嗟の動きに反応できず、防御態勢に入ることが出来ない。
迫る攻撃にふいに目を閉じたときだった――。
ゴッ!という鈍い音が響き、悲痛な鳴き声が聞こえてくる。
何が起こったのかと思い、ゆっくりと瞼を開いた・・・。
するとそこには手のひらサイズの石を横っ面に喰らい、あらぬ方向へと飛んでいく魔物が目に映る。
「よっしゃ、ナイッシュー!いい感じに当たったー!」
ミツキは驚きつつ声のしたほうに顔を向けると、そこにはのんきにガッツポーズをとる秋七が立っていた――。
◇◆◇◆◇◆◇
「ちょっと何やってるのよ!?支部のほうに戻るようにいったじゃない!」
「いや~、元の世界に帰ると思ったらいても立ってもいられなくなって・・・」
俺の言葉にミツキは呆れ果てる。そりゃそうだわな・・・訳のわからん理由でこんなとこまで出てきたのだから当然だ。
「さっきまでは物陰に隠れて、様子を見ていたんだけどお前の姿を見つけてよ・・・。そしたら魔物に襲われる寸前だったから、その辺に転がってた石を投げつけてたという――ね?」
ミツキは深い溜息をつきながら一瞥する。俺は苦笑いをしながら頬を掻いた。
「ま、まぁ油断してた私も悪かったし、助けてくれたことには素直に感謝するわ。でもあとでゆっくり話を聞くから覚悟してなさい」
おおう、静かなプレッシャーを感じる・・・こりゃあとで説教だな。言いつけを守らなかったのはこっちだし仕方ない・・・。
だがしかし!助けに入ったのは確かだ!少しはいい仕事したと思うよ、うん!
「だいぶ数が減ってきました。あと少しで鎮圧でき――」
グォオオオオーーーーーーーー!!!
「な、なんだ・・・?なんかすごく嫌な予感がするんだが・・・」
大きく響き渡る咆哮。その轟音に地面が揺れ、辺りを異様な空気が取り巻く。
イクスたちが一斉に動きを止め、声がした方へと視線を向けた。
舞い上がる砂煙の中、ゆらりと巨大な影が姿をあらわす。その場の全員が信じられないといった表情だ。
徐々に視界が晴れていき、それがハッキリと目に映る。
一般人の俺でさえ容易に想像できる・・・。いま自分たちの眼前にいる〝それ〟が如何に危険かということを――。
「な、なんでこんなところにいるのよ・・・」
「この人数でも、さすがに不利かもしれませんね・・・」
そこには翼を大きく広げ、鋭い眼光でこちらを威圧する〝翼竜〟の姿があった――。