西方からの襲撃
「まったくあなた達は揃いも揃って迷子になるなんて・・・。探しまわるこっちの身にもなってよね!」
「まあまあ、嬢ちゃん。そう怒りなさんなって・・・。俺も秋七も悪いと思ってるし、そろそろ許してくれよ、な?」
新太郎が必死にミツキの機嫌をとっている。本人は頬を膨らませて目も合わせてくれない・・・。
そりゃそうだよね、迷わないように言われてたのにも関わらず、瞬時に行方しれずになってしまったのだから言い訳のしようがありません・・・。
「次はないから覚えておきなさいよ、分かったわね?」
「「はい、すんませんした!」」
とにかくここはとことん謝っとくのにかぎるな。最終的にはダイナミック土下座だってやってやるさ!今はプライドなんて関係ねぇ!あとが怖いからな!!
「あらミツキちゃん、巡回ご苦労様!はい、これさっき出来たばかりのミートパイなんだけど、隊の皆さんで食べてね~」
「お!ミツキのお嬢ちゃんじゃないかい!ほら、この魚もっていきな!」
「ミツキお姉ちゃん、ハイ!これクラスのみんなで作ったブレスレットなんだ~!また学校にも遊びに来てよ!」
石畳のメインストリートを歩いていると、ミツキに話しかけてくる住民が後を絶たない。しかもごく自然に話しかけてくるため本人たちにとってはいつもの光景なのだろう・・・。だけど俺と新太郎はそれに対して驚きを隠せなかった。
自分たちの世界ではこのような光景は見たことがない。
「ほー、嬢ちゃんって人気者なんだな~。みんながみんな話しかけてくるじゃねぇか。この人達、全員知り合いなのかね?」
「あ、悪いわね・・・なかなか先に進めなくて」
ミツキは申し訳無さそうな顔をするが、これといって急いでいるわけでもないので首を横に振ってやる。
イクスというものは、この世界では警察のような役職というのは重々承知している。これはイクスとしてミツキが信頼されている証拠なのだろう。
「ここは私の指揮する小隊の巡回担当区域なのよ。見回りは毎日しなきゃいけないことだから、自然と話すことになってね。そしたらいつの間にか顔見知りになっちゃってるの。休日にも勝手に足が向いちゃって、この辺りで過ごすことが多くなってたりするから――」
そう口にする彼女の顔はすごく楽しそうだった。そこに集る人たちがみんなして笑顔になっている光景・・・。
それを見てなにか自分の中から込み上げてくるものを感じた・・・。
「あんたたち、迷い人かい?」
そう問いかけてきたのはがっしりとした体格のいい男だ。さっきミツキに魚を進めてたおっちゃんだというのがすぐに分かった。
「まあそんなとこかな。今はいろいろ案内してもらってるとこだよ」
「やっぱそうか!その格好じゃ、ミツキ隊の新しいメンバーってわけでもなさそうだしな~!」
「もうー、そのミツキ隊っていうのやめてよね。率いてるのは確かに私だけど、主役は私じゃない・・・みんなで一つのチームなの!大切な仲間なんだから!」
ミツキは頬を膨らませて怒っている。よほど大事な仲間たちなのだろう・・・。
男は苦笑しながら頭を掻いている。ミツキ隊というのは禁句だったのかもな・・・。
「あなた達にもあとで紹介するわね!」
そう言ってミツキは微笑む。俺たちがこっちの世界に来て目にした中で、少女が浮かべた一番の笑顔であった――
◇◆◇◆◇◆◇
「ところで秋七、あなたさっきの場所で何をしていたの?あの辺りはこれといってめぼしいものは無かったはずだけど?」
「あ、そうだ!実はさっきのとこで女の子とぶつかってさ。多分、その時に落としたんだと思うんだけど・・・」
そう言いながら路地裏で拾った石を取り出し、二人の前に突きだした。
「かなり綺麗な石だな~。そんなのこの辺に落ちてんのか?」
「な!?ちょっとそれって!」
新太郎は物珍しい物を見たという反応に対して、ミツキの方は明らかに予想外といった感じである。
「あんた、それ装具石じゃない!その女の子って三つ編みの眼鏡っ娘じゃなかった!?」
「え?そ、そうだけど・・・。なんだ知り合いか?」
「やっぱり・・・研究部の子だわ。装具石の移送中だったのね」
ああ、研究者だったのか――って装具石!?これって只の石じゃないの!?
普通に素手で持っちゃってるんだけどいいのか!?手袋必須とかじゃないよね?なんか怖くなってきた・・・。
「とにかくその石は早く返さないといけないから届けに行きましょ。今頃、彼女があたふたしてる頃だろうし・・・」
ミツキがそう言いかけた時だった――。
街全体に緊急警報が鳴り響く。同時に西の方角から爆音とともに煙が上がるのが見えた。
辺りが騒がしくなり人の往来が激しくなる。
「な、なんだ!?爆発か!?」
「西門の方からだわ!私は現場に向かうから、二人は支部のほうに避難して!」
ミツキはそう口にして走りだす。爆音に警報・・・間違いなく何かあったのは明白だ。
「これってヤバいだろ!?俺たちも早いとこ逃げないと――って、おい!どこ行くんだ、秋七!」
新太郎の言葉を背に、俺は駆け出していた。自分でもなんでこんな行動にでたのか分からない・・・。気づいたら無意識に体が動いていたのだ。
場所は騒ぎが起きている西門の方角。俺は何の迷いもなく、そちらへと向かっていた。