迷い人 -マヨイビト-
「なるほど、森の中で魔物に襲われていたところに出くわし救出。そして見慣れぬ服装をしていたため、怪しいそうと思い連行した・・・・・・と。確かに今の我が国の状態を鑑みるとそう考えるのも無理はないですねー」
皆さん、どうも。水凪 秋七(みずなぎ あきな)です・・・・・・。現在、私はメガネなイケメンさんに取り調べを受けています。
俺、別に悪いことしてないんだけどな~。教室に入ったら、周りが森になってたり、デカい爬虫類に襲われたりしただけなんだけどな~。
「ですが大丈夫でしょう!見慣れぬ格好をしていますが、彼は向こうの住人だと思いますしね」
「向こうの住人・・・・・・ですか。言われてみれば今まで会った方たちもこのような服装をしていましたけど――」
(へ?向こうの住人?何のことだ、それ・・・・・・)
向こうの住人ってどゆこと?じゃあこの人達はこっちの住人・・・・・・ん?
自分で口にして、その言葉の分からなさに頭がこんがらがってきた・・・・・・。
「ああ、これは失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は彼杵 宗一郎(そのぎ しゅういちろう)と申します。とある学園の教師をやっていましてね!今回、あなたの聴取を任せられました。そしてあなたをこの場所に連れてきた彼女が――」
「ミツキ・F・アードライトです。ごめんなさい、いきなりこんなところに連れてきて――」
「えーっと、は、はぁ・・・・・・」
なんと答えたらいいものか分からない。だけど相手の反応から見るに、俺の疑いは晴れたようだ。とりあえず拷問とかは無いみたいで安心しました、いやマジで・・・・・・。
「それにしても最近、迷い人が増えてきましたねー。今日だけでもあなたで五人目です。原因は不明ですがどうやら〝こちらとあちらの世界〟の繋がりが不安定になってるのかもしれないですね」
ん?この人、いま何て言った?こちらとあちらの世界?いったい何をいって――
すると次の瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれ、今度は黒いコートの男が入ってきた。
てかいきなり入ってくんなよ!ビックリするじゃねぇか!一応、チキンハートなんだからお手柔らかに頼むよ、ホント!
「彼杵教官、新たに迷い人だと思われる者を発見しました。よろしいですか?」
「おやおや、またですか?今日は非常に多いですねー。いいでしょう、どうぞお連れしてください」
イケメンさんがそういうと、男は部屋の外で何やら騒ぎ立てている者を引き入れてくる。
「おい、あんたたち!いったい何なんだ!?俺は怪しい奴じゃねぇっていってんだろ!」
そこには赤茶色のツンツンとした髪に、額には赤いバンダナ。年齢はおそらく20代後半ぐらいであろう・・・・・・短い髭面の男が声を荒げて入ってきたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「なるほど、ではあなたも気づいたら渓谷の谷間に立っていたと。訳の分からないまま彷徨っていたら、獣人型の魔物に目をつけられ逃走。半泣きになりながら、走っていたところに部隊が駆けつけ救出と・・・・・・」
「半泣きとか言うんじゃないよ!!あんなところに飛ばされて、化け物に発見されるや否やいきなり襲われて泣きそうになるのも当然じゃねぇか!ていうかマジ泣きじゃなかっただけマシだろうが!?」
髭面の男は顔を赤くしながら吠える。大の男が少しとはいえ泣いてしまったことに恥ずかしくなっているようだ。
そして隣で話を聞いていたミツキは、笑いを堪えているのだろう体を小刻みにプルプルさせている。
机上には男を救出した時に撮った写真が置かれていた。部隊員の肩に腕を回して、鼻水を垂らしながらピースサインをとっている男の安心しきった顔。目元が赤くなっているため、泣いていたのは容易に想像できる。
――にしてもなんで写真撮ったの?生存記念?
まあ俺も同じような状況に遭っていたので分からなくもないが、さすがに写真は頼まれてもご遠慮願ったぞ・・・・・・。あ、でも俺は泣いてないからね?そこは誤解しないように!
「鼻水垂れ流しながらでも、助かったんだからよかったじゃないっすか!これで顔面全体が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだったら目も当てられない――」
「目も当てられないとかいうのやめろーーーー!!俺の純心をえぐんじゃねぇ!」
あれ?フォローしたつもりだったんだけど・・・・・・。
「とにかくお話の方は分かりました。やはりあなたもこちらの世界に飛ばされたようですね。ならば相応の対応をさせて頂きましょう!どうぞご安心ください」
彼杵は優しく笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がる。
そういえばさっきからこっちの世界とかあっちの世界とか、よく分からないことを言っている。
さすがに何も聞かないのはどうかと思うし、説明を求めるのもありだろう。
「あのー、ちょっといいっすか?」
「水凪さんでしたね。何でしょうか?質問があれば聞いてくれて構いませんよ!」
彼杵は表情を崩さないまま視線を向けてくる。何だ、この爽やかさは!?眩しすぎる!後光さしてんじゃね!?
くそ!負けるものか!!俺も爽やかさでは負けてないつもりだぜ!(どや顔)
ってのは置いといて――とにかくいくつかのキーワードについて聞いてみよう。
「さきほど話していた時に世界がどうとか言ってましたけど、ここって日本じゃあ無いですよね?」
「ええ、日本どころか世界自体が違います。簡単にいうとお二人からしたら、ここは〝異世界〟ということになりますね」
「はぁ!?異世界!?おいおい、冗談だよな?」
「あのさ、おっさん。ちょっとだまっててくんね?俺が話してんだからさ。あと髭が暑苦しい・・・・・・」
質問の途中で横やりをいれてくる髭面を睨みつける。俺の言葉におっさんは若干、怯んだようだがすぐに調子を取りもどした。
「おっさんていうな!こう見えてもまだ26だぞ!俺の名前は柳谷 新太郎(やなぎや しんたろう)だ!」
なんだ名前あるんじゃないか。名乗らないからずっと髭やバンダナって呼んでいいのかと思ってた。
「彼杵先生の言ってることは事実よ。ここはあなた達のいた世界じゃない・・・・・・。それに私達からしたら、こっちが現実。あなた達のような人をこちらでは〝迷い人〟と呼んでいるわ。」
見るからにミツキの表情は真剣そのものだ。これは嘘をいってる訳ではないようだな。
こんな場所まで連れてきたんだし、嘘の情報をいったところで相手に得があるとも思えない。
「分かった、信じるよ。俺たちを騙しても仕方なさそうだしな・・・・・・。実際にあんな化け物と鉢合わせてるんだしな。そんじゃあ二つめの質問だ。その迷い人とやらは他にもいるのか?」
「はい、いますよ。先ほども話したとおり、ここ何ヶ月かで一気に増加しています。憶測ですが二つの世界の境界線が狂ってきているのではないでしょうか。なので空間が不安定になり歪みが発生。そこに知らずのうちに入り込んでしまう、または巻き込まれてしまうといったところでしょうか」
「歪みの発生はコントロールすることが出来ないから、こちらとしても対処できないのよ。だから歪みの反応があった場合、その場所に近い部隊が報告を受けて現場へと向かう・・・。何もなければいいんだけど、あなた達のような迷い人がいれば保護して連れてくるの。こちらから〝送る〟手段はちゃんとあるから安心してくれてかまわないわ」
え、あれって保護だったの?切っ先を突きつけられる保護ってあるんだね・・・。
「おお!それじゃあ俺たちの世界に帰る方法ってのはあるんだな!?やったじゃねぇか!なあ、ガキー!」
「ガキっていうなガキって!俺の名前は秋七だ!はしゃぎすぎなんだよ、ったく・・・・・・」
なんかやたらと馴れ馴れしい新太郎に悪態をつく。まあ俺もおっさんとかバンダナとかいってたからお互いさまではあるが・・・・・・。
とりあえずウチに帰る方法があるのを知って心底、安心する自分がいるのが分かった。
「それではあなた方のことを報告しなければいけませんので、もうしばらくお待ちいただいてよろしいですか?それが終わり次第、元の世界へ繋がるゲートへとご案内しますので、それまで市街地のほうでも見回ってみてはいかがでしょうか?案内のほうはミツキさんにお任せしますよ!」
「ん~、そうだな!なあ秋七、嬢ちゃんに観光案内してもらおうや!異世界なんてそうそう来れるもんじゃねぇし、お土産とか名物とか見て回ろうぜ!な?」
「ああ、分かった分かった。ったく、観光しにきたわけじゃねぇんだぞ?」
「そういうなって!楽しくやろうや!じゃあ嬢ちゃん、案内よろしくな」
「分かったわよ・・・・・・彼杵先生の頼みじゃ仕方ないわ。案内してあげるから、迷子にはならないでよね!」
ミツキは溜息を吐きながらも付き合ってくれるようだ。ボーっと待ってても仕方ないし、ここは新太郎の誘いに乗っておくか。
だけど実際のところ異世界の街並みというのがどんなものなのかは気になる。一応、異世界なんだし外国に入るよな?そう考えるとなんかワクワクしてきたぞ。
「じゃあミツキ――さん、面倒かもしれないけどよろしく頼むわ」
「普通に呼び捨てで構わないわよ。私も秋七って呼ばせてもらうから。それじゃあいきましょうか!」
「俺のことも新太郎でいいからよ!そんじゃま、楽しくいこうぜ~!」
そう言葉を交わし、俺たち三人は街へと繰り出したのであった。