狙われたもの
御神木から数十メートル離れた場所・・・そこにセルジュたちの姿があった。
地面が抉れ、木々が根本からへし折れており、上空から見るとそこだけポッカリ穴が開いてるように見える。
そしてその中央には黄色い巨体が横たわっていた。それが生きていないのは誰から見ても明らかだった。
「どうだ?何か分かったか?」
セルジュは同行させた調査員に、個体についての解析をさせていた。薄々、感じてはいるが、それが事実だとは思いたくない。
「ちょうど個体の解析が終わりました。色、鱗の形、遺伝子情報からして黄竜の上位種である〝光黄竜〟で間違いありませんね」
その名称を聞いてセルジュは深い溜息をついた。調査員が持っている端末に目を通しながら頭を掻く。
「予感的中かよ・・・光黄竜――エンシェント・ドラゴンか・・・。なんてやつを標的にしやがったんだ、まったく・・・。国で指定された〝接触禁忌種〟じゃねぇか――」
「数カ所にバリスタの矢と思わしきものが見て取れますね。あと大砲で負ったであろう傷まで・・・間違いなく人の手によるものです」
「ハンターだな。しかも大層な装備を持ってるときやがった・・・。ここ数日、怪しい連中が目撃されてるって報告を受けていたが・・・ビンゴだったようだ」
セルジュは懐から煙草を取り出し火をつける。一服しつつ、暗くなった空を見上げながら、隣りにいた隊員に言葉を投げかける。
「どっちだと思う?」
「そうですね・・・エンシェント・ドラゴンともなると空賊ではないかと思います。海賊では飛竜相手に不利だと思いますが・・・」
「いや、そうでもないぜ。巣を焼いて、飛竜をおびき出したところをバリスタで固定。そして大砲やらの爆発物でダメージを与えれば、仕留めることも難しくないだろう。エンシェント・ドラゴンの生息域は基本的に周りを海に囲まれた孤島だしな・・・」
このエンシェント・ドラゴンという種は、温厚な性格をしており、他の飛竜とは違い争いを好まない傾向にある。たとえ人間から危害を加えても、自らを守るため、すぐに飛び去ってしまう。
だが一つだけ例外はある・・・。
「確かにそう考えたら海賊にも襲撃できますね・・・。しかしそれだけ攻撃されたら、相応にダメージは残りますよね?ここまで飛行して来るなんてこと出来ないのでは?」
「普通ならな・・・だが子供がいたなら話は別だ。いくらダメージを受けようが、命をはって守ろうとするのは人間も竜も一緒だろ・・・」
「ではこの竜は!?」
「ああ、子供がいたはずだ。ここいらでは見ていないがな・・・」
セルジュは周囲を見回すが、当然ながら子竜の姿などどこにもない。つまりまだ子竜は生きているということだ。
「全隊員に告げろ。捜索範囲を広げて、何としても子竜を見つけだせ、見つかり次第、照明弾で知らせろってな――あと二人は俺についてこい」
「了解しました!」
吸い終わった煙草の火を消し、セルジュも森の方へと歩を進める。すると目の前に上空から黒い人影が降りてきた。
「相変わらず忍者みたいなやつだな、お前は・・・。デート中に目の前に現れたりとかは勘弁してくれよ?」
「そんな野暮なことはしませんよ。今回は緊急の用がありましてね」
セルジュは目の前に現れた人物――メルティに苦笑いしてみせる。
「それじゃあ聞こうか?その緊急の用件というやつを――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで用っていうのはいったい?」
こちらを鋭い眼光で睨みつけてくる、マント男に俺は質問を投げかける。全身から漂ってくるプレッシャー。そこいらの人間と違うのは明らかだった。
「ああ、何・・・そこにいる子竜を渡してもらうと思ったんだが、どうもその嬢ちゃんも特別みたいだな?珍しい物には目がなくてね~、良かったらおじさんたちとお話しようじゃねぇか」
服を掴む小さな手に力が篭もり、小刻みに震えているのがよく分かった。リンをかばうように、ディールが身構える。
「おやおや、これはこれは小さなナイト様だこと・・・。でも悪いな、俺たちが用があるのは、嬢ちゃんと子竜だけなんだ」
いつの間にか周囲を囲まれた俺たちは、逃げることもままならない状態だ。人数は8人。リーダー的な男は中肉中背、大柄な男に女が数人・・・まあ大柄な男は相手にしても勝てないだろう。
「おっと無駄話が過ぎたな。さぁ、ガキと竜を渡してもらおうか・・・」
すると男は腰に差していた、剣を抜き、こちらへ向けてくる。他の連中もナイフや、斧などを構えて今にも襲いかかってきそうだ。
「チッ!話し合いで解決っていうのは無理そうだな・・・」
俺も応戦するために渡されていた武器を構えた。とはいえ最近まで一回も戦ったことなどない素人だ。しかも相手は魔物ではなく、自分と同じ人間だ・・・。
そう考えると自然に手が震えてくる・・・。
魔物相手とは違い、人に刃を向けるのがこんなに怖いなんて――。
「じゃあ頂こうかねぇ!」
「そうはいかないわ!」
男たちが襲いかかってこようとした時、上空から聞き覚えのある声が降ってきた。その後、目の前に降り立つ一つの影。
「おっと、思ったより早かったな・・・イクスの隊長さんよ~」
天からの救いとはこのことだろうか・・・。
俺達の前にはラグナを展開した、ミツキの姿があった。
「て、天使だ・・・」
新太郎は涙を浮かべながら、わなわな震えている。その感激の仕方から、よほど怖かったのだろう。
こんなセリフめったに言わないよな・・・。
「悪いけど、この子たちに手を出させるわけにはいかないの――」




