小さな発端
じーーーーーーーーーーー。
「あの・・・何か?」
淹れてもらったお茶を飲んで一息ついていると、こちらをガン見する女の子が三人。
「先日はご挨拶もできず失礼しました!あなたが噂の無限一閃使いの秋七さんですよね!」
ショートヘアーの活発そうな女の子が目を輝かせながら、こちらを見てくる。
「いやいやそんな大層なものでは・・・って噂になってんの!?」
「そりゃそうですよ!あの伝説に語られてる存在です!噂にならないわけがないじゃないですか~。ユン・・・じゃなくて自分も会えるのを楽しみにしていたんです!」
期待の眼差しが痛いくらいに突き刺さる・・・。いくら特殊な能力が使えるとはいえ、普通の学生である俺にその視線は重いです――。
「ユンちゃん、秋七さまが困ってるじゃないですか。申し訳ございません、この子、御伽話が大好きなんですよ。仕事そっちのけで文献を漁っちゃうくらい・・・。なので無限一閃なんて聞くとワクワクせずにはいられないみたいで――」
お盆を手にした、ほんわか口調の女性が口をひらく。かなり大人びた感じの人だな・・・。
「ユンが落ち着きないのはいつものこと・・・」
「うぉ!?いたの!?」
机の影からピョコッと顔が出てくる。俺としたことが不意をつかれてしまった・・・。ホラーなんかでよくある横からドーン!ってやつだ。
「ずっといた。ちょっと恥ずかしがりやなお茶目さんなのです」
「あらあら、自分で言っちゃうのね~!さすがメルちゃん!」
どこが流石なのか分からんが、ミツキの隊には色んな子がいるんだな。
「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね~。私はリーシアと申します。主に二人の保護者代わりと言った感じでしょうか?何か困ったことがあれば遠慮せずに申し上げてくださいね!」
「自分はユンっていいます!隊長や副隊長のような、かっこいいイクスになれるよう、日々精進していきたいと思っております!歴史や伝承などについては、ぜひ自分に!何でも教えちゃいますよー!」
「メルティ。好きに呼んでもらって構わない。偵察や情報収集は私の仕事だから、そのへんのことは聞いてくれていいよ。あとこの頭に付いているネコミミはお気になさらず」
「これはこれはご丁寧に――。俺のことはミツキから聞いてるとは思うけど、水凪 秋七っていいます。こっちはまだ二回目で右も左も分からないから仲良くしてくれると助かるよ」
三人がそれぞれ挨拶をしてくれたので、当然ながら自分も挨拶をしなければなるまい。メルティのネコミミに関しては、気にすんなと言われてしまったから何も言うまい・・・。
「お互いに挨拶は済んだみたいね。みんな、すごくいい子たちだから、あなたも仲良くしてあげてちょうだい」
丁度いいタイミングで報告から戻ってきた、ミツキが部屋の中へと入ってくる。
「隊長、お疲れ様です!ミリア副隊長はどうしたんですか?」
「ミリアなら晩ご飯の買い物に行ったわ。今日はシチューだそうだから、夕方には帰ってこれるようにですって」
「シチューですか~。それなら私も早めに帰ってお手伝いでも――」
うむ、平和な会話である。イクスってもっとバタバタした仕事なのかと思っていたのだが、そうでもないようだ。
それにしてもミリアさんが、晩ご飯の買い物・・・会話を聞く限り、みんな一緒に暮らしているのだろうか・・・?
「じゃあ今から巡回しにいきましょうか。あなたはどうする?前に来た時に、町中を見て回ったから、大体の場所は把握出来てるでしょ?」
「ああ、迷子にはならないと思うけどこれといって目的もないし・・・よければみんなの仕事を見せてもらえないか?」
「別にかまわないけど・・・どうしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだから気にしないでくれ」
イクスにならないかといわれ、具体的にどんなことをするのか知りたくなったというのが理由ではあるのだが、断ったということもあり本当のことは言いづらい・・・。
いくら戦闘技術があるとはいえ、魔物討伐だけではないはずだ。こういうことは実際に見たほうが早いと考え、申し出たまでである。
「おお、いいですね!一緒に行きましょう!」
「そうですね~、参りましょうか~」
「異議なし」
「いいわ。退屈だと思うけど我慢してね」
全員の許可を得たところで、街の巡回へと繰り出すことになった。邪魔にならないようにしないとな――。
「あれ?そういえば新太郎は?」
「彼ならとっくに外に出ていったわよ。なんでも可愛い女の子たちとお近づきになるんだ!っていって走っていったわ」
行動力に関してはすごいな・・・でも何故だろう、フラれている未来しか見えない・・・。
帰ってきた時のためにお悔やみの言葉を考えておかないと・・・。
そんなことを考えつつ、俺はミツキたちと共に隊室を後にした――。
◇◆◇◆◇◆◇
町中に気持ちのよい日差しが降り注ぐ。港町ということも相まって、優しく吹き抜ける潮風が心地いい。
周囲では住民たちが店の呼び込みなどで活気づいていた。今回で二回目だがこの光景は何度見てもいいものだと思う。
「こんな活気に溢れた光景、こっちでしか見ないから新鮮だな~、ホント。美味そうなのもたくさんあって腹が減ってくる」
「自分たちからしてみれば当たり前の光景でも、別世界の方からしたらやはり違うんですねー。よかったら何か奢りましょうか?」
「いや、一応まだ仕事中なんだし、今度にするよ。別の日にでもご馳走になるからよろしく」
そうこう話していた時、前方に見覚えのある顔が見て取れる。俺を(おまけに新太郎を)ここに呼んだ張本人だ。
「あら、セルジュ隊長じゃないですか~」
「相変わらずのイケメン・・・」
相変わらずって、つい数分前に会ったばかりじゃないですか・・・。まぁイケメンなのは認めるけどさ。
「今日はこちらで過ごすと聞いていたんですが、何かあったんですか?」
数人のイクスを連れた、セルジュにミツキが代表して尋ねた。一般人の俺から見ても、共にいるイクスたちは腕が立つようにみえる。
簡単に言うと・・・強そう!(小並感)
「ああ、数日前に魔物の亡骸が発見された場所に向かう途中なんだよ。どうもあの件については引っかかってね~。発見された魔物が魔物だし、納得できるまで調べたいなってね」
「あの森での件ですか。あの件に関しては調査が中断されたという話ですけど――」
「だから余計、気になってね。扱いは自然死ということにされているけど、俺にはそうは思えないんだ」
セルジュはいつにも増して真剣な面持ちになる。
「おっと、そろそろ行かないと・・・夕方には戻らないといけないからね」
「あ、そうですね。すみません、呼び止めてしまって・・・」
「いやいや!じゃあ、また後でね!」
セルジュは手を振り、町の入口の方へと向かっていった。
「ごめんね、待たせちゃって。私たちも行きましょうか」
ミツキの話が終わり、俺たちも再び歩きだす。二人が何を話していたのかさっぱりだったけど、セルジュの最後の表情は真剣そのものだった。
森で起きたことについて話していたみたいだけど、いつも軽い感じの人があれほどまで思いつめることっていったい――。




