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祈りが最期に織り上げるのは  作者: 小織
1:わたしの難儀な日常
3/12

策略の生徒会長







 わたしと美優の通う高校には、イケメンが五人いる。


 一人は我らが生徒会長。腹が真っ黒こえてドス黒い邪悪なメガネ。

 一人はサッカー部の部長さん。我が道を往く俺様。

 一人はイタリア帰りの帰国子女。薔薇散らすフェミニストポエマー。

 一人は赤髪ピアスの不良少年。ツンツンツンギレツンツンデレギレ。

 一人は常時全教科満点の学年主席。眠れる電波の受信塔。


 そいつらはみんなそろって美優にぞっこんで……なぜかあたしを目の敵にしているのである。






 リゴーンリーゴン。

 時計塔の鐘が鳴り、午前最後の授業が終わりを告げる。

 ひとときの休息、昼休みの始まりだ。


「ゆーきーちゃーん!」


 鐘が鳴って間もなくすると、美優がツインテールをぴょこぴょこ揺らしながら教室へやってきた。手にはお弁当。顔を上げれば、弾ける笑顔が「一緒に食べよ!」と言う。まあ、いつものことだ。

 わたしたちはクラスが違うけれど、お昼はいつも一緒に食べる。

 ちゃっかりわたしの前の席をゲットした美優と机をくっつけてお弁当を広げる。


「いただきまーす!」

「いただきます」


 手を合わせて食前のあいさつをすませ、さて食べようと箸をとったときだった。

 低い声がわたしを呼んだ。


「雪!」


 いやいや振り向くと、教室の外にイケメンが一人立っている。

 その姿を見た女子たちが黄色い声を上げていた。

 あいかわらずすごい人気だ、腹黒鬼畜眼鏡のくせに。


「会長さんだ。何の用なのかなー?」


 雪ちゃんのことを呼ぶなんてめずらしいね、と美優が言う。

 たしかにその通りだ。美優の取り巻きの一人であるイケメン生徒会長は、美優に声をかけることは多々あっても、わたしに声をかけることは少ない。――美優の知る限りでは。


「さあ……。執行部の連絡じゃないかな」

「あ、そっか。雪ちゃん庶務だもんねー」

「うん。ちょっと行ってくる」


 席を立ち、会長の元まで急ぐ。


「こんにちは、会長。わたしに何かご用ですか?」

「ああ。雪、手を出して」


 憮然とうなずいた会長は、手を出すようにわたしへ命じた。

 命令に従うと、手のひらに銀色の鍵が落とされる。


「なんですか、コレ」

「執行部室の鍵」


 ということは、やっぱり執行部の仕事か。

 わたしの考えを読みとったかのように会長がうなずく。


「部室に次の生徒総会でつかう資料がページごとに山積みされてるから、それ製本して」

「わかりました。期限はいつまでですか?」


 たしか生徒総会の開催は明後日だったはず。

 いやな予感がわたしの胸中をよぎる。

 それを肯定するように、会長はふたたびうなずいた。


「明日までによろしく」

「……っ、」


 このド畜生!!

 と思っても、根が小心者のわたしはその罵倒を口に出すことができない。

 会長は顔面蒼白でつっ立つわたしをにこやかに見下ろすと、ぽんぽんと肩を叩いてきた。


「大丈夫、俺も手伝うし」


 わたしは首を振った。縦ではない、横にである。

 不思議そうに目を細める会長はなんにもわかってない。製本作業なんて雑用をわたしが会長に押しつけてみろ、会長の犬……もとい副会長がすっとんできて、ネチネチネチネチしつこくからまれるに決まってる!!

 のちの精神的苦痛を考慮すれば、一時の重労働の方がまだマシ。

 わたしは回れ右をし、急いで弁当を片付けると、きょとんとしている美優とにこやかに直立する会長を残して教室を飛び出した。


 背中から「待って雪ちゃん、あたしも行くううう!」という叫び声が聞こえたが無視。ついてこられちゃたまんない。

 事情を話せば、美優はきっと製本作業の手伝いをしてくれるだろうけど、それは絶対に阻止しなければならないのだ。

 美優は底抜けのアホだから、紙をページ順にとじるだけという単純作業でも何をやらかすか分からない。そんなやつの面倒まで見ている余裕を今のわたしは持ち合わせていないのだ。


 でも、なにも言わずに置いてきぼりにするのはさすがに可哀想だったかな。

 ふと罪悪感が胸をかすめるが、その想いはすぐに消え去った。

 たぶん美優のことは、あの子にぞっこんな生徒会長がどうにかしてくれるだろうと思い付いたからだ。

 会長、美優のだだっ子の世話を頼みます。

 廊下を全力疾走しながらそこまで考えたわたしの脳裏に、ひとつの可能性がよぎる。


 そこまで見通した上で会長が雑用をわたしに押しつけてきた――なんてこと、さすがにない……よね?


 わたしは沈黙した。



 ありそうで困る。

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