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ヘタレな勇者  作者: 六三
17/28

17:知りすぎたヘタレ

 その頃ファーリスとティーナは、庭の奥の木陰にいた。


 勿論、ティーナがファーリスを膝枕しているのだ。


 そして2人は他愛もない会話を楽しんでいた。


 ティーナが自分の膝に寝転がるファーリスの肩に左手を置いて語りかける。


「ファーリスって金髪なのに目は黒いけど、ファーリスの居た世界では珍しくないの?」


「え? どうして? こっちの世界では珍しい?」


「珍しいわよ。私は聞いた事も見たことも無いもの」


「へー。そうなんだ?」


 ファーリスの頭がさらに動き、ファーリスはティーナの膝の上で仰向けに寝転がった。

 その為、ファーリスの肩に手を置いていたティーナの左手が肩から外れてしまったが、今度は右手をファーリスの頭に添える。


 そしてファーリスの金髪をもてあそびながら再度問いかける。


「ええ。そうよ。ファーリスの世界ではどう?」


「多くは無いけど、珍しいというほどじゃないかな? こっちの世界で金髪碧眼の人を見るのと同じくらいと思うよ」


「そうなの」


 ティーナはそう言いながらも、ファーリスの金髪を自分の右手の人差し指に巻きつけて遊んでいる。


 そしてファーリスに微笑みかけ、ファーリスもティーナに微笑みかけた。


 まことに良い雰囲気だが、そこに別の人間の声が割って入った。


「ファーリス殿ー。いないかー?」

 とファーリスを探す声が聞こえる。

 誰かと言えば、勿論アルベルトに言われてファーリスを呼びに来たベムエルである。


 ファーリスはその声に反応して、ティーナの膝から上体を起こしベムエルに向かって「ここだよー」と返事を仕掛けたが、ティーナが「ダメ」と小さく言うと、ファーリスの体を抑えてまた自分の膝の上において、さらにファーリスの頭を抱える様にして、自分も座りながら身を縮こませた。


 そしてファーリスが例によって「あ。ダメなんだ?」と素直にそれに従っていると、ティーナはファーリスを探し続けるベムエルの声が聞こえ無くなるまでじっとし、その声が聞こえなくなってからやっと上体を起こした。


「ベムエルさんに見つかったらダメだったの?」


 ファーリスがティーナの膝に頭を乗せたまま問いかけると、ティーナが笑いながら答えた。


「だって、領主の娘が男の子とこんなところで2人きりで居たなんて、みんなに知れたらお嫁に行けなくなるわ」


 そしてまた笑った。

 だが笑い終えて、ファーリスの顔を見ると、その表情は目を見開いて驚いていた。


「どうしたの?」


 ティーナがそう聞くと、ファーリスはどう言えば分からず口ごもった。

 そしてティーナの膝に仰向けに寝ていたのだが、顔を見られない様に寝返りをうち、横向きになる。


「ファーリス?」


 ティーナには何がなにやら分からない。

 そしていつもの様に、ファーリスの金髪を指に絡めて遊ぼうと、ファーリスの頭に手を置いた瞬間。


「ベムエルさんが呼んでるみたいだから、僕行かなくちゃ!」


 と言いながら飛び上がる様に起き上がり、挨拶もそこそこに駆け出してしまったのだ。


 その後に残されたティーナは「変なの」と小さく呟くと、大きくため息をついて木に持たれかかったのだった。


 ベムエルが呼んでいるからと言って、ティーナの元から駆け出したファーリスだったが、自分でもどこを走っているか分かっていなかった。

 心はまったく別の事に囚われていたのだ。


(ティーナ。2人で居る所を見られたらお嫁に行けなくなるってどういう事なの?)


 改めて考えれば、ティーナがファーリスに抱きついて来たりする時もすべて他に人がいない2人きりだけの時だった。


 ファーリスも自分とティーナが良い雰囲気という自覚は確かにあった。

 しかしそれでも交際というには、程遠いと思っていたのだ。


 だがファーリスが住んでいた世界と、この世界では考え方が大きく違う。


 ティーナはこの世界では他の人に見つかれば、他の人と結婚出来なくなるほどの事分かっていて、自分を抱きしめたり、自分に膝枕をしてたりしていたのだろうか?

 そう思うと、ティーナの顔を見る事が出来ず、そしてじっとしても居られなかったのだ。


 とはいえ、いつも遠くに移動する時は瞬間移動の魔法で移動している貧弱なファーリスに、ずっと走り続ける事など出来ない。

 しばらくすると、立ち止まり大きく息を乱して傍にあった木に手を着いて上体を持たれかけさせた。


 あの、綺麗で優しいティーナが自分の事を好きなのかも知れない。

 ヘタレのファーリスにとっては、頭がパンクしそうなほどの衝撃だった。


(明日からどうやってティーナと顔を合わせたらいいんだろう……)


 まさか僕の事好きなの? とは聞ける訳が無い。

 そう思うと、頭を抱え込んでしまうヘタレだった。


「お。こんなところに居たのか」


 不意に声を掛けてきたのは、勿論ベムエルである。


「ベムエルさん……」


「ん? どうしたんだい? やっぱり連日の出撃で疲れてるのかい?」


「え? あ。はい」


 ファーリスはそう答えると、気に持たれかけていた上体を起こしベムエルに向き合う。

 実際ベムエルにそう思われている方が都合がいい。

 ここで「どうしたんだい?」とでも聞かれ様なら、どう言ったら良いかまったく分からないのだ。


「そうか。疲れているところ申し訳ないんだけど、アルベルト様が君を呼んでいるんだ。悪いが着てくれるかな?」


「あ。はい。わかりました」


 そして2人でアルベルトの執務室へと向かった。


 アルベルトの執務室に着いて室内に入ると、アルベルトがいつもの通り立ち上がってファーリスを出迎え、座る様に進め、ファーリスが座ってから自分も座った。


 その様子を確認したベムエルは微かに微笑むと、アルベルトの後ろに直立不動で立つ。


「一応お聞きしますが、ファーリス殿は逃げる敵に攻撃出来ますか?」


 それが出来るならば、何も問題ない。アルベルトは念の為に聞いてみたのだ。

 だがそのファーリスの答えは、聞くまでも無い事だった。


「あ、すみません。逃げる人を撃つのはちょっと……」


 アルベルトは小さくため息を着いたが、次の瞬間には自嘲気味な笑みを浮かべた。

「いや、気にしないで下さい。私達はファーリス殿に頼り過ぎていた様です。とはいえ、じゃあこれからは私達だけで戦う、とも言ってはいられないのも事実なのです」


 ファーリスは「はい」と答えるのもどうかと思い、曖昧に「はぁ」と返事する。


 アルベルトはそのファーリスの返事に笑みを浮かべると話を続ける。


「なので、今後はファーリス殿と我々が共に戦おうと思います」


「一緒に?」


「ええ。軍勢とは指揮官の元統率されてこそ力を発揮します。ですがファーリス殿が魔法で敵を追い散らしたのなら、敵の指揮系統は壊滅していると考えられます。敵兵は、追い散らされたなら自らの陣地に逃げる様に前もって言い渡されているのが精々でしょう。その時に我々が敵に攻撃すれば勝利は間違いありません」


 そして言い終わるとアルベルトは、ファーリスに向かって力強く笑った。


 ファーリスも釣られて笑う。

「それでみなさんのお役に立てるのなら」


 アルベルトはその言葉に改めて笑いながら大きく頷いた。


 そして「それでは、お疲れのところ、わざわざお呼びして申し訳ありませんでした」と自らが率先して立ち上がり、ファーリスにも立ち上がる様に促す。


 ファーリスも素直にその進めに従って立ち上がる。

 そして「失礼します」と、扉へと向かった。

 するとベムエルがすっと前に出て扉に先回りをする。


 ファーリスがベムエルが開けてくれた扉を潜ろうとすると、その背中にアルベルトが声を掛けた。

「明日はがんばりましょう!」


「はい!」


 執務室を出たファーリスは、アルベルトの力強い言葉に元気付けられ、瞬間移動の魔法を使わずに足取りも確かに、自分の部屋へと向かって歩き出した。

 だがそのファーリスを呼び止める声が聞こえた。


「やっぱり、ここに居たのね!」


 振り返ると、果たしてティーナがにこやかに立っている。


「ベムエルが呼んでいたってなんだったの? やっぱりアルベルトの用事?」


 ティーナは、にこやかに微笑みながらファーリスに近寄ってくる。


「あ。うん。そうだよ!」


 ファーリスの声がつい不自然に大きくなる。

 そして自分の顔が熱を帯びるのが感じられ、鏡など見なくても自分の顔が真っ赤になっているのが分かった。


「どうしたの? 顔がものすごく赤いけど」


「そっそうかな?」


「ええ。とても赤いわ。熱があるのかしら?」


 ファーリスはティーナのその言葉に、ティーナが以前同じ様台詞を言い、額を自分の額にくっ付けて来たのを思い出し、さらに顔を赤くする。


 そしてティーナがさらに近寄ってくると、また以前と同じ様に額をくっ付けてくるのかと身構えた。

 だがその予想ははずれ、ティーナは自分の額に右手をやり、ファーリスの額には左手を添えた。


「うーん。熱いわね。やっぱり熱があるんじゃないの?」


「大丈夫だよ!」

 ファーリスはそう叫ぶと、その場から駆けて行っていってしまったのである。


(どうしたのかしら?)

 いきなりファーリスに嫌われたとはさすがに思えない。

 しかし明らかにファーリスの様子はおかしい。

 その場には困惑した顔のティーナが1人残された。


 そしてファーリスも駆けながら、さらに頭が混乱していた。

 ファーリスは、ティーナが誰か他の人が見ているか分からないところと、2人きりの時とでは明らかに違う行動を取る事に気付いてしまったのだ。


金髪碧眼になるのは共にメラニン色素についての遺伝なので、黒目で金髪は有り得ない。

と指摘を受けたので(黒髪で碧眼はあるらしい)あのような会話になりました。

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