18.同行者
家を出てから一か月と少し。
旅先で合流した長い付き合いのある常連客、ガブリエルとともに王都に戻ることになった。
まるで私の状況をわかっているのではと疑うほどのタイミングで、ガブリエルは遊びに来ないかとの便りをくれた。
いつもなら店が気になって断っていたがこれ幸いと王都を離れることに決め、結果、私にとって充実した一か月となった。
ウィルフレッドのことは、旅先でもふとした瞬間に考えることはあった。
だが、ガブリエルの存在、そして物理的な距離があいたことがよかったのか、心に抱えたもやもやはすっきりし、かなり前向きになれた。
終わってしまったことは考えても仕方がない。
騙されていた、偽りの恋だと知ってから一か月向き合い、気持ちが揺れながらも決めたことだ。
終わったことをうだうだ引きずるのは性に合わず、先のことを考えるほうが健全だと私は確かに一歩進むことができていた。
薬を作るのと考え方は一緒で、私にとって失敗は学びでもある。
失敗した時は落ち込むし、しばらく改善点を模索するため苦労もするが、次に生かせばその失敗は自分にとってプラスになる。
忘れ薬を飲ませることができ私の目標は達成したため、私の中でウィルフレッドのことは過去のものとなった。
ただ、一年以上通い、任務のために付き合うことまでしてみせた人が一か月店を空けただけで諦めるとは思えない。
またウィルフレッドは捜査にやってくるだろうが、それはそれだ。
今度はこちらも相手の目的を知っているため、それ相応の対応をすればいいだけで問題ない。
騙されたことは、忘れ薬によってないことにされた。
つまり、そのような事実は私が忘れさえすればなかったことになり、恋人ごっこという経験ができただけでも引きごもりがちな私にとっては今後何かしらの糧になる。
このようなことは特殊だとは思うが、次に付き合う機会があるなら慎重になればいいだけのこと。
「シャノン。俺がいるからっていろいろ買いすぎじゃないか?」
「だって、ガブの収納魔法すごいんだもの。せっかくならいろいろ試してみたかったし」
必要最低限の外出しかしてこなかったのでお金には余裕があり、この際だからとあちこちガブリエルを連れ回し、気になる物を購入した。
ウィルフレッドがいる街に戻ることに億劫にならないのは、帰ってからの楽しみができたからもあり、ガブリエルには本当に感謝している。
彼がいるからこそ買えた物も多く、さも当たり前にいろんなことをしてみせるので忘れがちだが、ガブリエルの魔法はすごい。
これは私の見解だが、国家お抱え魔法使いと比べても引けを取らないくらいのレベルではないだろうか。
「俺だって容量に限界はあるんだがな」
「でも、ガブなら余裕でしょ? いつもガブにはお世話になってます。今回も誘ってくれてありがとう。とっても楽しかった」
「ま、シャノンが幸せそうならそれでいいか」
ほくほくしながら告げると、ガブリエルは小さく苦笑し、ぽんと私の頭を撫でた。
ガブリエルの見た目は二十代と若々しいが、私を見る眼差しや言動はもはや保護者だ。そんなガブリエルに私も甘えている自覚はある。
「うん。ガブといて幸せだよ~」
ガブリエルは両親の知り合いで、両親が亡くなってからはずっと私の状態を気にかけてくれた。
今の店兼家を見つけてくれたのもガブリエルで、彼がいなかったら私は自立するのに時間がかかっていただろう。
常連客になると言い、ほぼ毎日のように店に顔を出し、時には一緒にご飯も食べとガブリエルにはお世話になっている。
そんな彼と一緒に王都に帰ってこられたのも心強く、私の歩みに迷いはなかった。
見慣れた景色が視界に入る。
この道を曲がったらもうすぐ我が家だ。そう思うと、ふっと肩の力が抜ける。
旅先での生活も楽しかったが、やはりもくもくと作業し店を営む生活は私の性に合っている。
ほどよく世話好きで、ほどよく無関心な人々との関係性も好ましく、王都から出てみて初めて思った以上にここに愛着があるのだと気づく。
「帰ってきたな」
「ええ。ガブは一年ぶりでしょ? 帰ったらご飯作るから。何が食べたい?」
「そうだな。シャノンのシチューが食べたい」
「ガブは好きだよね」
半ば予想していたメニューにやっぱりかと笑うと、ガブリエルは当然だと胸を張った。
「ああ。シャノンのシチューは絶品だ。毎日でも食べれるし、旅先で何が苦痛かと言えば、シャノンの料理を食べられなかったこととその笑顔が見られなかったことだな」
「そう? なら感謝の気持ちも込めて愛情たっぷりの物を作るね」
「それは楽しみだ」
ガブリエルは琥珀色の瞳を細めると、嬉しそうに笑みを深めた。
「任せて」
この一か月のお礼も込めて盛大に作ろうと気合を入れていると、ダンッと壁を叩く音が聞こえそちらに顔を向ける。
「あっ……」
「どうした?」
私の小さな声とともに音の方へと顔を向けると、ガブリエルが私を庇うように前に出た。
視線の先、店の前にはウィルフレッドが壁に凭れ、腕を組んで見たことのない険しい顔で立っていた。




