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婚約破棄された実務令嬢は、監査院で王国を再設計する  作者: ヲワ・おわり


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10/17

偽者主張の公開照合

 反派の文書は速かった。


『Kite証言は虚偽。人物同一性に重大疑義あり』


 朝には監査院廊下にまで写しが回っていた。噂は紙より軽いのに、広がる速度はいつも紙より速い。


「密室で否定し合っても終わらない」


 私はユリウスに言う。


「公開照合をやりましょう」


 臨時検証会は昼に設定された。審査官、記録官、北倉担当、そしてKite本人。傍聴席まで埋まっている。視線の数だけ、証言は削られやすくなる。


 私は反派文書のインクを見た。乾きが不自然に早い。紙全体は古いのに、一行だけ新しい。


「この文書、改ざんされています」


 鑑定紙を当てると、本文中の“人物同一性”行だけ別インク層が浮いた。後差しだ。


 証拠ID、DOC-F10――偽者主張文書の改ざん鑑定票。


 ざわめきが走る。傍聴席の一角で、誰かが舌打ちした。


 ユリウスが記録官へ告げる。


「改ざん鑑定を議事録へ。偽者主張の信用は一段落とす」


 審査官はなお言う。


「それでも本人性は実演で示せ」


 当然だと思った。相手の紙を潰しただけでは、こちらの人間が本物になるわけじゃない。


 Kiteが前へ出る。


「運用課夜間端末の復旧手順を示します」


 彼の指先は細いが迷いがない。認証遅延時の迂回入力、二段承認の省略禁止、監査フラグ回避不能条件。順序に淀みがない。暗記ではなく、繰り返し身体で覚えた人間の動きだ。


 傍聴席の記録官たちがざわつく。現場経験がないと出ない順序だった。


「第三段階の確認項目は?」


 審査官がわざと細かい問いを投げる。


「保全印の破損有無、補助署名の欠落、前回復旧との差分です」


 即答。


「差分が出た場合は」


「単独復旧を止め、夜間監督端末へ引き継ぎ。例外承認を通しても監査ログは消えません」


 最後の一文に、私はわずかに息を飲んだ。あの言い方は、やったことのある人間の言い方だ。


 私は事前に封印しておいた手順書断片を開く。


 記載順が一致した。


 証拠ID、PROOF-K10――公開照合記録。


 中央席の審査官が紙を見比べ、短く宣言する。


「Kite証言、有効。偽者主張文書は再審査対象」


 室内の空気が一段軽くなる。けれど私の胸の内側は、軽くなるより先に鈍く痛んだ。人一人を“本物だ”と証明するのに、どれだけの手順が必要なのか。逆に言えば、紙一枚で偽物扱いするのがどれだけ乱暴だったのか。


 Kiteは一歩だけ下がり、壁際に手をついた。強がっていたが、肩は少し震えている。


 私はそっと近づく。


「大丈夫?」


「……今さら聞くな」


「聞きます」


 彼は数秒黙り、低く言った。


「消えなかっただけだ」


 その言葉が、妙に胸に残った。


 消えなかっただけ。

 でも、今の私たちにはそれで十分だ。消されなかった証言は、次の紙を動かせる。


 私はメモに書いた。


 DOC-F10。

 PROOF-K10。


 次の矛先は決まった。王都運用課中枢。


 ユリウスが扉へ向かいながら言う。


「直監査要求を出す。今夜中だ」


「同意します」


 追われる側から、追う側へ。

 線は、ようやく王都の中心に届き始めた。


 私は最後に私用欄へ一行だけ加えた。


 “本物だ”と証明されたのはKiteだけじゃない。

 こちらが積んできた手順もまた、本物だった。


 検証会が終わったあとも、傍聴席のざわめきはすぐには消えなかった。さっきまで“偽者”と呼ばれかけていた人間が、今は誰より静かに壁際へ立っている。その対比が、妙に苦かった。


 Kiteは手を見下ろしながら言う。


「こんな形で証明される人生になるとは思わなかった」


「私もです」


 思わず本音が出た。


「でも、証明されないよりはずっといい」


 彼は小さく頷く。


 その時、ユリウスが封筒を二つ机に置いた。直監査要求書と、今しがた確定した議事録の写しだ。


「次は王都運用課中枢だ。ここから先は、個人の真偽じゃなく、組織の責任になる」


 私はその封筒を見つめた。


 卒業式の日に奪われたものを取り戻す戦いは、もう私一人のためだけじゃない。Kiteのように紙一枚で消されかける人間が、次にも出る。その前に止める必要がある。


 私は封筒を手に取る。


 追われる側から、追う側へ。

 その言葉に、ようやく体が追いつき始めていた。


 検証会のあと、廊下の窓から見える空は薄い灰色だった。朝とも昼ともつかない色で、今の私たちに少し似ていると思った。勝ったわけじゃない。負けていないだけだ。でも、その“負けていない”が次の一手を許す。


 Kiteは壁に寄りかかったまま、封筒を見ていた。


「次は、俺のせいで誰かが消えるかもしれない」


「違う」


 私は首を振る。


「消そうとしている側のせいです」


 言葉にした瞬間、自分でも少し驚いた。前なら、こういう断定は怖かった。けれど今は違う。証拠がある時の言葉は、感情だけの叫びにならない。


 ユリウスが短く補う。


「だから次は運用課中枢を押さえる。責任を正しい場所へ戻す」


 私は頷く。


 責任を正しい場所へ戻す。

 それは制度の言葉だけれど、同時に私自身の願いでもあった。卒業式の日、間違った場所に落とされた責任を、ようやく上へ返し始めている。


 私は封筒を抱え直した。


 今日、証明できたのはKiteの本人性。

 明日、証明するのは私たちの反撃が偶然ではないという事実だ。 “}}]}าคาร่า to=functions.edit 彩神争霸官网_outputnull? Wait malformed?Let's see.】【。analysis to=functions.edit code _植物百科通_json? no need. Let's inspect error.】

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