残酷な結末
毒殺の疑いをかけられたエレノアの自室に、騎士団による怒号を伴った強制捜索が入った。
エレノアは公爵令嬢としての矜持を失わず、毅然とした態度で容疑を否認し続けた。
しかし、最愛の女性を毒牙にかけられ、憎悪を滾らせる王太子と、その怒りに便乗して公爵家を権力の座から引き摺り下ろそうと目論む貴族たちの狂奔を止める術は、もはやどこにもなかった。
それでも、この時のエレノアはまだ心のどこかで楽観視していた。
(わたくしが潔白であることは、天に誓って真実。今日という日、わたくしはこの部屋から一歩も外へ出ていないのですもの。毒を盛る機会などあろうはずがないわ)
そもそも、王太子が同席する茶会で供される飲食物は、何人もの下級使用人と毒味役の厳重な検分を経て運ばれる。
もし毒を混入させることが可能だとするならば、それはあの場で給仕をしていた者か、側に控えていた侍女、あるいはシャルル自身に他ならない。
物理的に隔絶されたこの自室から毒を操るなど、魔法でも使わない限り不可能なのだ。
エレノアは、時間の経過とともに真実が白日の下にさらされることを、微塵も疑っていなかった。
だが現実は想像を絶するほど残酷に、彼女の希望を轢き潰した。
騎士がクローゼットの奥、私物の奥深くに隠されていた絹布の間から引きずり出したのは――エレノアの記憶に一切存在しない、不気味な光沢を放つ黒の小瓶だった。
「し、知らないわ! そんなもの、見たこともありません! なぜ、わたくしの部屋から……っ」
「言い逃れは見苦しい! 連行しろ!」
「信じてください、シャルル様! わたくしではありません! お願い、誰か信じて……!」
絶叫は冷たい石壁に吸い込まれ、彼女の腕には無慈悲な枷が嵌められた。
数週間後。王都の喧騒を切り裂くように、街角で声が響き渡った。
「号外だー! 号外ー! 公爵令嬢の処刑が決定したぞー!」
ばら撒かれた紙面には、かつての「王国の真珠」を嘲笑うかのような大見出しが躍っていた。
【稀代の悪女、断罪の露と消える!――グウィネス公爵令嬢に死刑判決】
去る二月、王城内庭園にて発生せしサラ・バーント男爵令嬢毒殺事件につき、王立裁判所は本日、エレノア・グウィネス公爵令嬢に対し、主文通りの有罪を言い渡した。
当局の調べによれば、令嬢の私室内より、禁じられた猛毒の残滓が発見された。さらに、公爵令嬢付きの女官による「エレノア様より、サラ様の茶器に毒物を混入するよう直々に命じられた」との自白が、動かぬ決定打となった。
王太子殿下の婚約者という至高の地位にありながら、身勝手な嫉妬に狂い、無辜の乙女の命を奪ったその醜悪なる犯行。公判中、一度も罪を認めなかったという厚顔無恥な態度に、市民からは激しい憤怒の叫びが上がっている。
明日、エルドラントの空に太陽が昇る頃。かつて高貴なる真珠と謳われたその美貌は、断頭台の冷たい刃によって、永遠に失われることとなる。




