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完璧なハッピーエンド

 壮麗な結婚式の後、エレノアは若き王妃として、これ以上ないほど穏やかな幸福を手に入れた。


 血飛沫も、喉を焼くような絶望もない。ただ、夫シャルルの寵愛と、国民からの惜しみない称賛だけが彼女を包んでいた。




 やがて、長い陣痛の苦しみの果てに、新しい命が産声を上げた。

 王宮の静かな寝室。窓からは美しい陽光が差し込み、愛する夫シャルルが、感極まった様子で生まれたばかりの娘を覗き込んでいる。



 エレノアは幸福の絶頂にいた。


「……可愛い、私たちのシャルロット」


 エレノアは、意識の混濁の中で、ごく自然にその名を呼んだ。

 誰も教えてはいない。しかしそれはかつて狂った王が、数多の少女を土に沈めてまで蘇らせようと執着した王女の名前だった。



 赤子を抱き上げたエレノアの指先が、その小さな首筋に触れる。

 そこには、産着に隠れて見えないが、赤紫色の痣がまるで細い鎖を巻きつけたような跡となって、ぐるりと一周刻まれていた。



 ふと、赤子が目を開く。


 赤子特有の瑞々しさはどこにもない。深い泥の底から見上げるような、濁った硝子の瞳。


 その奥で、かつて修道院の地下や農場の泥の下で息絶えた数千の少女たちが、一斉に、音のない無機質な歓喜の声を上げた。


(ああ、ついに混ざった。)



 エレノアは感じていた。自分の血管を流れるのがもはや血ではなく、ドーツ川が運び続けた腐食した大地そのものであることを。




 父王の儀式は、失敗してなどいなかった。


 数百年という長い時間をかけ、幾人もの絶望を吸い込み、アナスタシアを狂気へ落とす器として利用し、エレノアという完璧な「運び屋」を幾回も磨き上げた。


 そして今、ついに呪いは王座へと辿り着いたのだ。




「おはよう、かわいいシャルロット。愛しているわ。……みんな、愛しているわ」


 彼女は、不自然なほど左右対称な微笑を湛えている。




 窓の外では、王国の終焉を祝うかのような美しい鐘の音が、どこまでも高く鳴り響いていた。


 シャルルはまだ気づかない。自分が抱き上げている希望の子が、王国のすべての血を啜り尽くすまで決して止まらない、永遠の飢えそのものであることに。



 幸福な地獄は、今、産声を上げたばかりだった。


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