昔むかし、あるところに
「シャルロット、シャルロット……まだ寝ているのかい? お父様だよ。ほら、お起きなさい。今日はお前の好きなライムパイを焼いてもらったよ。早く起きないとなくなってしまうぞ」
重いカーテンが陽光を遮る寝室。国王は、目を閉じたままの娘に声をかけている。部屋には濃厚な香油の匂いが充満している。
「……そうそう、あの侍女には罰を与えておいたよ。君の宝石を盗んだんだからな。シャルロットもいけないよ。服を入れ替えていたずらするだなんて、なんてお転婆なお姫様だ。無事だったから良かったものの……皆が心配するから、もう二度とこんなことはするんじゃないよ」
王の指先が、古びた麻糸のような娘の髪をなでている。
「お父様はこれから、グウィネス公爵のところに行ってくるよ。彼には大きな貸しがあるからね。私の頼みごとも、彼なら黙って引き受けてくれるだろう。見返りに、税をいくらか減額でもしてやろうか」
王は立ち上がり、娘の冷たい額に口づけを落とした。
「さて、そろそろ行かなくては。愛してるよ、シャルロット」
王の靴が床を叩く音が遠ざかる。
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荷馬車に、次々と「荷物」が積み上げられていく。
やがてその車は、人目を避けるようにしてグウィネス公爵家の外れにある広大な土地へとたどり着いた。積まれていたものは、名もなき穴の中へ、祈りの言葉一つ向けられることもなく沈められていく。
掘り返された泥の奥。一人の少女の首に無造作に巻き付いたままの銀の輝きは、深い闇の中で泥にまみれ、怨嗟と血をその身にたっぷりと吸い込んでいった。
それは、土の中で静かに「その時」を待つ。




