銀のネックレスの魔法
「ねえ、最近のアナスタシア様、少し変わられたと思わない? なんというか、時々……その、お育ちを疑うような粗野な振る舞いが見えるというか」
公爵邸の裏庭で、洗濯物を干していた小間使いたちが声を潜めた。
「わかるわ。あんなに怖がっていた乗馬を急にやりたがったり、そのくせ大好きだったお勉強中には、急に癇癪を起こして教科書を破り捨てたり……。食べ物の好き嫌いも激しくなったし、以前のお嬢様とは別人のようだわ」
「まあ、子どもってそういう時期があるものじゃない? 第一次反抗期ってやつよ、きっと。大人の知らないところで、心も体も成長していくものなのよねえ」
一人が楽観的に笑ったが、もう一人の年嵩の侍女は、納得のいかない様子で声を一段と低くした。
「それにしたって、あの荒れようは異常よ。聞いた? 先日、エドワード王太子殿下の婚約が正式に発表された時のこと。アナスタシア様ったら、まるで鬼のような形相で怒り狂って……部屋中のものを投げつけ、お気に入りのドレスまで引き千切り、手がつけられないほどだったんですって!」
「……エドワード殿下? でも、殿下はもう十六歳でしょう。八歳のアナスタシア様とは、年が離れすぎているわ。公爵様だって、あの方を王太子妃にだなんて、一言も仰っていないはずなのに」
「どこかで絵姿でも見かけて、勝手に憧れていらっしゃったのかしらね」
「そうかしらね…」
二人はふと、二階にあるアナスタシアの部屋を見上げた。
固く閉ざされたカーテンの隙間から、アナスタシアがじっと二人を見ているような気がして、二人は逃げるようにその場を立ち去った。




