表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/32

一度目の人生さえ、

「……違う。わたくしは、毒なんて盛っていないわ。それどころか、仲良くしようとさえ思っていたのに!」


 処刑台の上で、エレノアは叫んだ。周囲の罵声、冷ややかなシャルルの視線。


 あの夢と同じ、デジャヴのような絶望。


 彼女は必死に記憶を掘り起こそうとするが、肝心なところが霧に包まれている。ただ、母から貰ったネックレスを握りしめ、自分を奮い立たせていた感触だけが、妙に熱く首筋に残っていた。




 断頭台の刃が鈍く光る。その瞬間、エレノアの意識は、過去の「誰かの記憶」を覗き見るように、別の場所へと飛んだ。



 ・



【極秘記録】筆頭侍女リサ・カレンによる供述調書


「……あの日、舞踏会が終わってすぐの頃でした。エレノア様は普段、それはお優しく、非の打ち所のない淑女でいらっしゃいます。けれど、時折……本当に一瞬ですが、ふっと意識がどこか遠くへ消えてしまったような、虚ろな目を見せることがあったのです」


(……嘘よ。リサ、あなた何を言っているの?)


「エレノア様は、大切になさっていたお守りのネックレスを、肌に食い込むほど強く握りしめていらっしゃいました。その瞬間、お顔立ちが……いえ、雰囲気そのものが、まるで別人のように冷たく、暗い影を帯びたのです。エレノア様は見たこともない黒い小瓶を私に突き出し、地這うような声で仰いました。『あの泥棒の茶に混ぜなさい。』と」


(やめて。私はそんなこと言っていない。わたくしは、お母様を思って、ただ祈っていただけなのに――)


「私は、あの時のエレノア様が、本当に違う方だったのではないかと……今でも怖くて怖くて仕方がありません」




 ・



「……あ」


 エレノアは悟った。

 冤罪ではなかった。侍女の裏切りでもなかった。

 自分が「自分」だと思っている意識が、ネックレスと繋がるたび、彼女の肉体は勝手にサラを殺そうとしていたのだ。


 母アナスタシアが与えたネックレスは、守護の印などではなかった。


 エレノアが幸福に王太子と結ばれるまで、この悲劇は永遠に繰り返される。


「お母様……お母様……っ!!」


 絶叫が刃の落ちる音にかき消される。

 首筋に走る衝撃。

 暗転する意識の中で、エレノアは決意した。


 もし、何をしても「運命」から逃れられないのなら。

 次は、心も体も、すべてを明け渡してしまおう。



 こうして、エレノアはエレノアであることをやめた。


 次に目を開けたとき。

 十三歳の鏡の前に立つ彼女は、虚ろな目で笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ