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また、あなたに出会うために

「取り返しのつかないこと? ……はて、閣下は何をおっしゃっているのですか」


 エレノアは小首を傾げた。その瞳は澄んでいるが、焦点がどこか遠くを彷徨っている。トンブル教皇は、その胸元で鈍く光る赤い石を指差し、絞り出すような声で告げた。


「そのネックレスはあまりに危険すぎる。今すぐに外し、こちらへ渡しなさい。……令嬢、あなたはすでに、半分以上呑まれているのだ」


 教皇は震える手で自らの聖布を広げ、そこへ載せるよう促した。しかし、エレノアはそれを遮るように、愛おしそうに石を握りしめた。


「困りますわ。これはお母様が、わたくしにくださった大切なお守りですもの。ねえ、お母様? この方、これを渡せとおっしゃるのよ。——まあ、酷いわねえ、エレノア。私の幼心を踏みにじられた気分だわ。——ええ、ええ。わたくしも同じ気持ちですわ」


 エレノアは誰もいない虚空に向かって、笑みかけた。


「ごめんなさい…わたくし、殿下のことばかり考えていたから、教皇様がいらっしゃることを失念していて。——全く、本当にエレノアは不出来な娘ね、これ以上あなたには構っていられないわ。——そんな…お願いですから、そんなこと言わないで、お母様。わたくし、おりこうにしていたでしょう?」


「エレノア……? 何を言って…」


 シャルルが顔を青ざめさせ、震える声で問いかける。しかし、エレノアは彼の声など聞こえていないかのように、自分の首筋を優しく、自らを絞めるような手つきでなぞった。


「……はい、分かっています。このままではわたくし、王妃にはなれませんものね。もう一度やり直しましょう、お母様。次こそもっと上手くやりますわ。」


「エレノア様、いけません! 耳を貸してはならない!」


 教皇の叫びも、今の彼女には遠い羽音のようにしか聞こえない。


「ふふ、お母様ったら。何回目っておっしゃっても、目が覚めたら覚えていないのだもの。……ええ、ええ。また次回。仕切り直しですわね。今度こそ、お母様の自慢の娘になりますわ」


 エレノアは一人で頷き、幸せそうに微笑んだ。その姿は、目に見えない何かに魂を絡め取られ、それを至上の幸福だと信じ込んでいる操り人形そのものだった。


「シャルル様、ごめんなさい。今回はここでお別れですわ。……でも大丈夫。またすぐに、あなたに会いに行きますから」


 エレノアは艶然と微笑んだ。


 その直後、流れるような動作で懐から護身用の細い懐刀を取り出すと、一切の躊躇なく、自らの白い首筋へと突き立てた。


 鋭い刃が肉を裂く、嫌な音が静かな聖堂に響く。

 銀の鎖が刀に引っ掛かり、ギャリリ、と嫌な音をたてる。

 噴き出す鮮血が、教皇の差し出した聖布を真っ赤に染め上げ、シャルルの頬を熱く濡らした。


 崩れ落ちるエレノアの顔には、苦痛など微塵もなかった。ただ、母に許されることを確信した、安らかな、しかしひどく歪な悦びだけが浮かんでいた。


 彼女の意識は、絶叫するシャルルの声を遠くに聞きながら、再びあの真っ白な視界へと溶けていった。


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