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消えた少女

 その時、私はいつものように針仕事の帰り道を歩いていた。


 いつもより少し帰りが遅くなってしまったから、早足で歩いた。途中でパン屋に寄って売れ残りのパンを分けてもらい、いつも通り川のそばの細道を抜ける。


 ――あの時の彼ったら、可愛かったな。手なんか震えちゃって、全然留め具が留められなくて。


 昨日、付き合って一年の彼からプレゼントをもらった。赤い石のついた、華奢な銀のネックレスだ。

 ついつい嬉しくて、小さな石を指先で撫でる。



 ―そういえば、この間王家の侍女が惨殺された事件があったな…まだ犯人捕まってないのよね…怖いな。早く帰らなくちゃ。


 あともう少しで家の灯りに手が届く。そう思った瞬間に、背後から影が伸びた。



 ・



 目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。




 ガシャ。


「んん! ンー!!」


 ガシャン、ガチャガチャ。


 手足には重い鉄の鎖が食い込み、口は汚れた布で塞がれている。静寂の中に、金属の擦れる音と自分の心臓の音だけがうるさく響く。恐怖で頭の中が弾けそうだ。



「……こんなこと、本当はしたくないんだけどなあ」


 重い扉が開き、見知らぬ男が二人、松明の火を揺らしながら姿を現した。


「あれ、起きてるじゃないか。薬の効きが甘かったか……。起きないうちに終わった方が幸せだったろうに。かわいそうになあ」


「目覚めちまったもんは仕方ない。このまま続行するぞ」



 必死に抵抗しようと体をよじるが、冷たい金属音が響くだけだ。男たちは慣れた様子で、少女を見下ろした。


「俺、こういうのは何度やっても無理だ。メヘト神に見捨てられちまう……」


「気にするな。俺たちは言われたことをやってるだけだ。たんまり金は貰えるんだ。それで全部忘れちまえばいいのさ。……さあ、急げ。」


 男たちに引き摺られ、少女は部屋の中央に描かれた、禍々しい紋様の床に転がされた。そこは、これまでに捧げられた無数の少女たちの、どす黒い血が幾重にも染み込んでいる。もはや模様さえ読み取れないほどに、床は腐った鉄のような臭いを放っていた。




 こわい…。助けて。助けて。お父さん、お母さん。

 死にたくない。死にたくない…



 少女の視界の端で、銀色に光る鋭利な刃が持ち上げられた。


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