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悪女は、聖地巡礼を満喫する  作者: ざっきー
第二章

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別れ


 ヴィオレットの逝去が公表された同日、刑が執行された。


 マリアンナの罪状は傷害致死罪に切り替えられたが(実際に人を殺害したわけではないため)、半年間の自宅軟禁生活という処分に終わった。


 しかし、それも慶事(戴冠式)の恩赦で幽閉に変わるのではないかと噂されている。



 ◇◇◇



 ヴィオレット妃の棺が、前皇帝の隣に埋葬される。

 表向きはケガによる死亡のため、葬儀は通常通り行われた。


 見届けるのは、イリニームとアルフィのみ。

 アルフィは気丈に振る舞い、最後まで涙を見せることはない。


 前皇帝の国葬の時とは打って変わり、雲一つない青空が広がっていた。



 ◆◆◆



 この国で、エルザのやるべきことはすべて終わった。

 一番懸念していた連座制は適用されず、アルフィが罰せられることはない。

 あとは、ひっそりと帰国するだけだ。


 主の居なくなった離宮は、静まり返っている。

 ヴィオレット妃に扮して大声で叫ぶ必要もない。


 侍女のお仕着せを着ているエルザは、黙々と離宮内の掃除をしていた。

 明日から、少しずつ荷物が運び出される予定となっている。ヴィオレット妃の形見はすべて、息子のアルフィが引き取るとのこと。

 高価な宝飾品は、形見の品を除き残りは国へ返還された。ドレスも同様だった。



 ◇



 ヴィオレット妃の葬儀がしめやかに執り行われた翌日、離宮を訪れていたのはアルフィだった。


「明日、帰国するのか?」


「はい。短い間でしたが、アルフィ殿下には大変お世話になりました」


「世話になったのは、私のほうだ」


 アルフィは、綺麗な所作で紅茶を飲む。

 実年齢よりも大人びているアルフィだか、今も変わらずジャムをたくさん入れている。

 年相応の幼さが垣間見え、エルザはクスッと笑った。



「陛下が、私が成人した際には、地方にある直轄領の一つを治めよと申されたのだ」


「では、殿下は公爵様となられるのですね」


 アルフィは貴族家への婿入りではなく、新たな爵位を与えられるようだ。

 彼ならば、きっと良き領主となる。

 エルザは確信していた。



「その直轄領に、小さな修道院があるのだ。そこの管理も私に任せたいとのことだった」


「殿下が、直々にですか?」

 

 この国での、昔からのしきたりなのだろうか。

 エルザは首をかしげた。


「帝都で大罪を犯した女が預けられているのだ。もっとも、その者は記憶を一切失くしているそうだが」


「えっ?」


 どこかで聞き覚えのある話に、エルザの顔色が変わる。


「まさか……」


「……悪女というのは、悪運が強いのだな。毒杯を賜ったが、効かなかったらしい。しぶとく生き延びたのだ」


「…………」


 毒が効かなかった理由は不明だが、一度毒を飲んだことで耐性がついたからではないかと考えられるという。

 再度、別の毒を飲ませるという案は、皇帝が一蹴したとのこと。

 

「一度は刑に処されたのだから、これ以上行う必要ないとおっしゃったのだ。事実上の恩赦だな」


「アルフィ殿下、良かったですね!」


「命は助けられたが、母上が犯した罪が消えたわけではない。これから生涯をかけて、罪を償わせるつもりだ」


「そうですね」


 母と子の関係ではなくなってしまうが、アルフィは今後もヴィオレットと関わりを持ち続けられる。

 エルザは、それが嬉しかった。


 次の予定があるとのことで、アルフィが席を立つ。

 エルザは、最後の見送りにでた。


「……もう、会えないのか?」


「殿下が成人され、外遊でメイベルナ王国へお越しになった際には、歓迎パーティー等でお目にかかる機会があるかもしれませんね」


 他国の皇族としがない子爵家の娘では、言葉を交わすことはできないだろう。

 それでも、アルフィの成長した姿を一目だけでも見ることが叶うかもしれない。


「その時を、楽しみにしています」


「そうだな。私も楽しみに待つとしよう。ところで……」


 アルフィは、やや薄い緑色の瞳をエルザへ向ける。


「リアムのことは、どうするつもりなのだ?」


「!?」


 予想もしていなかったアルフィーの言葉。

 エルザはすぐに取り繕い、淑女の微笑みを浮かべた。


「もう、彼と会うことはありません」


「なぜだ? 其方らは結婚すると思っていた」


「宰相様の子息には、婚約者がいます」


「それは、ローマンのことであろう? リアムにはまだいないはずだが……」


「リアムは、その身分に相応しい方と結婚すべきです」


「…………」


「帰国する前に、アルフィ殿下へご挨拶ができて良かったです。どうか、お元気で」


「……リアムには黙って行くのか?」


 エルザは答えない。

 ただ、淑女の微笑みをたたえたままだった。




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