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悪女は、聖地巡礼を満喫する  作者: ざっきー
第二章

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続・聖地巡礼の旅に出ます(前編)


 今日は、二度目となる聖地巡礼の日。

 先日の後出し情報に対する対価として、エルザが再びリアムからもぎ取ったものだった。


 一度目は一人で宮殿を抜け出し叱られたエルザは、今回はおとなしくリアムとローマンと一緒に出かける。


 前回と同じように侍女のお仕着せを着て、出発の準備は万端。

 程なくして、二人が離宮へやって来たのだが……


「アルフィ殿下! 朝から、どうされましたか?」


 二人と一緒に現れたのは、アルフィと護衛を務める近衛兵のマデニスだった。

 アルフィは普段の豪奢な衣装ではなく、金持ちの子息のような恰好をしている。

 マデニスの姿も、それに合わせたものだ。


「息子が母に会いにくることが、そんなにおかしいのか?」


「今日は、外出の予定があるとお伝えしたはずですが……」


 先日アルフィが離宮へ来たときに、エルザはきちんと告げていた。

 

「これから、『聖地巡礼』とやらに出かけるのであろう? 私も一緒に行くぞ」


「はい?……ではなくて、なぜでしょうか?」


「私が行きたいからだ」


「…………」


 エルザはちらりとリアムへ視線を送ったが、小さく首を振るだけで何も言わない。


 『行きたいから』、そんな理由で皇子の外出が簡単に許可されるわけはないのだが、臣下の立場であるため誰もアルフィへ強く進言できないようだ。


 しかし、ここでエルザが「はい、わかりました」と頷くわけにはいかない。


「大変申し訳ございませんが、お断りいたします」


「な、なんと申した!」


「畏れながら、申し上げます」


 予想外の返答に唖然としているアルフィへ、エルザは構わず言葉を続ける。


「アルフィ殿下は皇族であらせられます。ご自身のお立場をご自覚いただき、ぜひともその身分に相応しい立ち居振る舞いをお願いいたします」


「…………」


「上に立つ者が、我が儘を言って臣下を困らせてはなりません」


「エルザも、教育係と同じようなことを申すのだな……」


「殿下のためを思っての苦言です。何卒、お聞き届けください」


「……わかった」


 アルフィは、渋々といった様子で頷いた。

 もっとごねられるかと身構えていたエルザだったが、案外あっさりと引き下がってくれたことにホッとする。


 たかだか子爵家の娘が、他国の皇族へ偉そうに物申すなど本当に心臓に悪い。

 先日は、そうとも知らずこの国の女帝と倉庫の掃除をし昼食まで共にしてしまったのだ。

 

 自分は一介の下級貴族なのだから、分相応に生きていきたい。

 もう二度と、経験したくはないのである。


「では、私たちは急ぎますので、これで失礼──」


 さっさと出発しようとしたエルザの目の前に、アルフィから一通の書状が差し出された。

 

「こちらは、何でしょう?」


「其方宛の、グレイソンからの手紙だ」


「宰相様から、ですか?」


 すぐに内容を確認したエルザだったが、見る見る間に顔色が悪くなる。


「エルザ、何が書いてあった? 俺たちも、父上から詳細は知らされていないんだ」


「それが、たまには母子で外出してこい……」


「はっ?」


「……と皇帝陛下が申されているから、アルフィ殿下をよろしく頼む!と書いてあるの~!!」


 リアムへの報告が、最後は悲鳴に近い絶叫となる。

 宰相の後ろで高笑いをする女帝の姿が見えた。


「さすがの私でも、勝手に宮殿を抜け出すようなことはせぬ。きちんと、宰相を通じて陛下へお願いをしたのだ」


 エルザから断られることを見越して、先に根回しをしていたアルフィの完全勝利だった。


 皇帝からの命令には逆らえない。

 こうして、御守りを押し付けられたエルザは、アルフィを連れ出かけることになった。



 ◇



 アルフィがいるため、庶民も使用する辻馬車での移動はできない。

 代わりに、お忍び用の馬車が用意されていた。

 家紋の付いていない、一見すると普通の馬車だが内装は豪華な仕様。

 エルザがトールキン帝国へ連れてこられたときに乗った馬車よりも、大きいものだった。

 


 ◇◇◇



「今日は、どこへ行くのだ?」


「本日は、市井でも下町のほうへ行く予定です。市場を見学したり、買い食いをしたりなどですね」


「庶民の暮らしに触れる機会は、そうそうない。エルザと一緒に来て、正解であったな」


 まだ成人をしていない六歳のアルフィが宮殿の外へ出られるのは、年に数回ほどある公務のみ。

 それだけに、好奇心が抑えきれないようだ。

 きらきらと目を輝かせる姿は、年相応の男の子に見える。

 

 御守りを押し付けられたときはガックリしたエルザだったが、こんな姿を見てしまったら気持ちも変化する。

 せっかくなら、庶民の暮らしを少しでも体験させてあげたい。

 エルザは頭の中で、今日の行動予定を少しだけ修正する。


「今日の私は、皇子ではなく商会の子息だ。だから、アルフィではなく『アル』と呼んでくれ。リアムとローマンもよろしく頼む」


「「かしこまりました」」


「私は、アル様付きの侍女ということでよろしいですか?」


「うん? エルザは、私の年の離れた姉(設定)だぞ」


「あ、姉ですか!?」


 意外な返答に、思わず声が大きくなる。


「私には兄しかおらぬ。だから、丁度よいであろう?」


 アルフィには、皇帝が女であることはまだ伏せられている。

 だから、エルザは「それは、そうなのですが……」と曖昧に答えるしかない。


「しかし、姉は……」


「これは、命令だ。『様』も要らぬ」


「わかりました」


 皇弟から言われた以上は、従うしかない。

 母になったり、姉になったりと、実に忙しいなと思うエルザだった。

 



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