第八十九話「解析と適応――南無三 vs ホムンクルス」Analysis and Adaptation — Namusan vs Homunculus
決闘場に、澄んだ音が鳴った。
対峙する二人。
南無三――人型妖怪、外見は年若い少女。軽やかな和装に、緩くまとめた髪。
その瞳は明るく微笑んでいるが、奥に宿るのは、妖しき異才。
「ねえねえ、ホムくんって……その見た目、カッコいいねー。でも中身は無機質なの?それとも、案外ドキドキとか、するタイプ?」
彼女はくるりとその場で一回転して、袖をひらり。
ホムンクルスは返答しない。精密な人体模型のような肉体に、感情は見えない。
ただ一歩――地面を砕きながら踏み出す。
「……戦闘開始」
その瞬間、南無三が軽く身体をひねり、回避。
拳が風を裂くが、彼女はぴょんと跳ねて斜め後方へ。
「うーわ、初手から殺る気?こわっ……てへぺろ☆」
軽口の裏で、目は鋭く動く。
(打撃の角度、力点、軌道のばらつき――これは“模倣学習型”。最初の一分は観察モード、ね)
ホムンクルスは第二撃へ。
無感情な表情のまま、流れるようなラッシュ――肘、膝、踵、掌底。
南無三は紙一重でかわすと、右手で着物の裾を押さえながら、足払い。
「……っと♪ これで……バランス、崩れた!」
回転しながら振り上げた膝が、ホムンクルスの顎をかすめる。
が、その直後。
ホムンクルスの体が地面に倒れる前に、宙で軸を切り替え、足で着地。
膝蹴りをすぐさま返す。
「わ、学習速度も高っ!なるほどぉ……やるじゃん」
(この子……私の動き、もう“参考データ”にしてる)
南無三は距離を取ると、表情を引き締めた。
「じゃあこっちも本気でいくね?」
一歩、前に出る。
瞬間、彼女の身体が残像を残して動いた。
――高速の平手、裏拳、足の甲、踵、逆手突き、指先での目潰しフェイント。
ホムンクルスはそれらすべてを防ぎ、反撃の拳を放つ――が。
「ハズレ~。でも反応、速くなってるね。てへぺろ☆」
(私の型を“理解”してる。じゃあ……“型破り”にいくしかない!)
南無三はあえて崩した不規則なステップへ。
次の一撃は、姿勢を低く構えた状態からの、猫のような跳躍肘!
――だが、それすらもホムンクルスは防ぐ。
「成長率、えげつないなぁ……!」
それでも彼女は笑う。
拳が交差し、回転蹴りが空を裂く。
その間にも、互いの動きは進化し続ける。
◆◇◆
観客席の冒険者たちが、息を呑む。
「おい……これ、どっちが勝つかわからねぇぞ」
「南無三、あの小娘にしか見えないのに、戦闘のプロだ」
「けどホムンクルスの精度、異常すぎる。型を読み、上回ってくる……」
◆◇◆
再び正面から相対した二人。
南無三の額には、一筋の汗が滲んでいた。
「へへっ……強いね、ホムくん。こりゃあ、ちょっとだけ本気出しちゃうかも」
「解析中──戦闘パターン、更新。想定勝率、拮抗」
「そーゆーの、黙ってりゃモテるのにぃ。もったいな~い……♪」
でもその声の裏で、彼女の瞳は戦士のものだった。
(これ以上の成長を許せば、私の技術が通用しなくなる。次で、仕留める!)




