表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/177

第八十八話「玉砕の咆哮」Roar of the Last Stand

 砂煙を裂き、獣が飛んだ。


 咆哮とともに、ドーマンが野性の勘を研ぎ澄ませる。

 もう理性はいらない。今だけは“元陰陽師”でも“芦屋道満”でもない。

 ただ、目の前の化け物を倒すための、牙と爪の塊。


「うおおおおおッ!!」


 吠え声と共に、ドーマンが地をえぐるように突進した。

 九尾が回避行動に移るより早く、低空からの足払い。


 バランスを崩しかけた九尾の脇腹へ、フックのような膝がめり込む。


(……速くなってる?)


 否――違う。


 速さではない。“重さ”が違う。


 殺意を乗せた肉体の一撃が、九尾の内臓を揺らす。


「クッ……」


 九尾が後退しながら構える前に、ドーマンの拳が連打で叩き込まれる。


 右ストレート、左アッパー、逆回しの踵蹴り――

 すべてが感覚任せ。それなのに、的確。


「……くそっ、読めない!」


 九尾の動きが鈍る。


 次の瞬間、ドーマンは爪を振り抜く。


 肩口から背中へ、裂傷が走る。


 九尾が尾で間合いを取ろうとしたその瞬間、その尾にドーマンが噛みついた。


「ギッ……!」


 歯を食いしばる音とともに、九尾が地を蹴った。


「ふっ、全力で来い。こっちも、野性で応えてやるよッ!!」


 ドーマンが手のひらを地に叩きつけた瞬間、土が弾ける。

 彼の全身に雷のような気が駆け巡り、筋肉が一瞬膨張する。


「うおおおおおあああッ!!!」


 ドーマン、第二段階への解放。


 拳が、九尾の顔面を捉える。

 尾で防御するも――衝撃は防ぎきれず、砂地に叩きつけられた。


 血が散る。

 だが、九尾は笑った。


「……終わらないさ」


 瞳が、蒼く燃える。


 立ち上がった九尾の周囲に、風が巻いた。


「じゃあ――お前の野性と、俺の“狂気”の続きをやろうか」


 尾が、うねる。

 そして――始まった、獣の本能。


 一撃目:尾


 鋭く、喉笛を薙ぐ水平の斬撃。ドーマンは紙一重で後退。


 二撃目:尾(縦)


 追撃のように振り下ろす。ドーマンが前腕で防御、地面が裂ける。


 三撃目:尾(突き)


 重心をずらして突き刺すような一閃。肋骨の下に刺さるが、致命には至らない。


 四撃目:肘


 懐に潜り込んでの肘打ち。顎が跳ねる。


 五撃目:足技(踵)


 反転しながら背後へ踵落とし。ドーマンがガードに入るも、腕が痺れる。


 六撃目:回し蹴り


 スピンしながらの回転蹴り。風圧が観客席まで吹き飛ばす。


 七撃目:ボディ撃ち(膝)


 再び懐に入り、鳩尾へ膝蹴り。ドーマンの体が折れかける。


 八撃目:回転肘


 一回転しての肘。横顔に命中し、牙が一本飛ぶ。


 九撃目:踏み込み肘(上昇)


 上方向に振り上げるような肘打ち。ドーマンの身体が宙に浮いた。


 十撃目:尾・フルスイング


 九尾が回転を加速、

 尾を全力で振り抜く!


「――終いだ!!」


 だが――その瞬間。


 ドーマンの右腕が、九尾の胴を貫いた。


 九尾の目が見開かれる。


(ばかな、今のタイミングで……カウンター!?)


 尾の軌道上、ギリギリの位置で待ち構えていたドーマンが、

 直感で出した、玉砕覚悟の拳。


 すべてを無視した本能。

 予備動作も、技術もない。ただ一撃――脊髄に届く破壊の一点。


「野生を――舐めんな……!」


 九尾の全身から力が抜ける。


 そのまま、倒れ込んだ。


 決着の瞬間。

 会場に静寂が落ちる。


 審判の声が震えていた。


「……勝者、ドーマン!!」


 砂の上で、二人の獣が倒れていた。

 だが、立っていたのは――ただ一人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ