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第七十二話「天使の輪、斬空を翔ける」 Angel’s Halo Soars Through the Sky Slash

 百目が、闘技場からゆっくりと戻ってくる。


 歩みは遅く、姿勢も気怠そうで、好きだらけに見える。

 身体能力が高いわけでもない。腕っぷしで勝てそうな気すら、最初はした。

 けれど、あの試合を見た今では――確信がある。


 今の俺では勝てない。


 解析、回避、投げ、崩し、追撃。どれも美しく、狂いがなかった。

 力ではなく、理で相手を圧倒したその姿に、ランスとしての俺は、明確に“敗北”を感じていた。


 (鍛錬が……必要だな)


 俺は自分の拳を見下ろす。

 ルイのようにテイムが使えるわけでもない。百目のような解析もできない。

 けれど――


「本気を出すなら……今だな」


 俺の“本気”は、単なる努力や鍛錬の延長ではない。

 それは、死の向こう側にあった力。


 俺が人間だった頃――最期の瞬間、俺の中には天使が憑依していた。

 共に殺され、共に転生した。だから、俺の魂には未だに、天使の力が残っている。


 その力を解放する。


 ――眩い光が、俺の身体を包む。


 背中から、4対の白銀の翼が広がる。

 頭上には、七枚の天使のヘブンズ・リング

 ゆっくりと回転を始め――やがて、銀光を纏ったチャクラムへと変化した。


「行くぞ」


 戦闘開始の合図とともに、俺は地を蹴る。

 だが、それは初速にすぎない。


 一瞬で空を斬った。


 空中を跳ぶのではない。滑空ではなく、浮遊でもない。

 俺の動きは、まるで空間を点と点でつなぐような、超高速の直線移動。


 相手が反応する暇もなく、まず一撃。

 二刀の剣が、風を裂いて斬りつける。

 かわされた? 問題ない。


 俺の背中から放たれた、第一の天使輪が弧を描いて敵の側面を切り裂く。


 敵は驚いたように身を翻すが、もう遅い。

 第二、第三の輪が時間差で軌道を描く。

 その軌跡は完全に制御されており、旋回し、誘導し、敵の“逃げ場”を封じていく。


 (足りないな……まだ、火力が)


 俺は剣を交差させ、螺旋を描く斬撃で空中に圧を作る。

 そして、第四から第七の輪を一斉展開。


 七つの輪が俺を中心に三次元的な陣形を作り、

 回転しながら、敵の周囲を囲み始める。


 逃げ場は、もうどこにもない。


「──終わりだ」


 輪が光を集める。

 一瞬で天使の加護による加速斬撃をチャージし、俺自身も空中を滑るように突撃。


 斬撃、輪、光、爆発的な風圧。

 敵が手にする武器など、もはや意味をなさなかった。


 剣が交錯するよりも早く、

 輪が彼の動きを制御し、俺の斬撃が通過した。


「──ふっ」


 斬ったのか、通ったのか、自分でも曖昧になる速度。

 だが、敵は次の瞬間、崩れるように地へと落ちた。


 勝利の合図。

 けれど、俺は拳を握る。


 (……まだだ。71秒)


 想定では40秒で仕留められるはずだった。

 輪の軌道に0.3秒のズレ、最終突撃前の反応に1テンポの誤差。

 本気を出したはずなのに、まだ“完璧”じゃない。


 光の輪が一枚ずつ消えていく。

 翼がゆっくりとたたまれ、俺は静かに地に降りた。


 仲間たちは、息を呑んでいた。

 百目に続いて――俺もまた、隠していた“本当の力”を解き放った。


 (……次は、ルイの番か)


 俺は彼の背中を見る。

 あいつなら、俺たちとは“別のやり方”で……全てを凌駕してくる気がしてならない。

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