第七十話「五柱決闘団、出陣す」 The Five Pillars Duel Corps Marches Out
エルフ王宮・通信の間。
古代精霊術と魔導機構の融合により、浮かぶ水鏡に映し出されたのは、三つの国家の使者たち。
漆黒の鎧に身を包むヴァルグラッドの軍令官。
魔紋が刻まれた額のベリオンの宰相。
そして獣毛を逆立てるグランハルトの族長代表。
いずれも、一国の代表を務めるには十分すぎる威圧感。
だが、その中央に立ったルイの表情は変わらない。
「三国による同時決闘形式──すなわち、我らが五名でそれぞれの国と一度ずつ戦うということで、異議は?」
水鏡越しに、三者が頷く。
「それで良い。敗北すれば、我らの主張は退ける。勝てば……条約の筆は我らが握る」
「異論はない。ただし、勝敗は明確であるべきだ。降伏、戦闘不能、テイムの発動、いずれかが認められた時点で決着とする」
魔族宰相の声には魔力の濁りすら感じられる。
ルイは頷いた。
「では、我らはこの“決闘”を以て、未来を賭ける」
通信が切れると同時に、部屋の空気が静まり返った。
ランスが肩を回しながら言う。
「……三国相手に三連戦か。殺る気満々じゃねぇか、あいつら」
「まあ、不利だな」
百目が冷静に言う。「五人で三戦、計十五戦をこなす。その間、一切の補給・交代なし。実質、消耗戦だ」
「だが……こちらには“型”がある」
芦屋が笑う。「一撃で決めれば、消耗は最小で済む。な?」
ルイは小さく頷く。
「……うん。何とかなる」
その一言が、静かな火を灯した。
自信ではない。確信でもない。ただ、体に根ざした直感。
“今の自分たちなら、やれる”。
そして、試合当日。
開かれた決闘の地は、中立領域《神臨原》――
天と大地がむき出しのままぶつかる、神代の戦場跡。
すでに各国からの観戦使節が集まり、無人の観客席が幻視魔術によって満たされていた。
審判役は、中立都市連盟の評議長が務め、開会の鐘が天空を震わせる。
五人が整列する。
ルイの表情は変わらず静か。ランスの笑みはどこか殺気を孕み、九尾と百目はそれぞれ式符と光球を手に準備を整える。芦屋は、手を後ろに組み、ただ空を見上げていた。
「――第一戦、対ヴァルグラッド軍。代表、五名出陣」
告げられた瞬間、空気が変わる。
対面の出撃口から、鋼の騎士たちが現れる。
全員が“実戦特化型の対霊装備”を纏い、静かに剣を抜いた。
まるで戦場そのものが呼吸を止めるような、極限の静寂。
だが、ルイは、笑った。
「よし。……まずは一本、取ろうか」
第一戦、開幕。




