第六十九話「戦か、試練か、あるいは…」 Battle, Trial, or Perhaps…
エルフ王宮、月影の間。
霊樹の天蓋に覆われた空間に、異なる時代と思想を持つ者たちが一堂に会していた。
中央に座すはルイとランス。その背には、百目と九尾晴明。
周囲にはハイエルフの重鎮たち──千年を超えて生きる賢者の瞳が、真剣に光を湛える。
そして、芦屋神祖は威光を抑えつつも、どこか飄々と佇んでいる。
「三国同盟からの正式な宣戦布告か……」
第一声を発したのは重鎮の一人、翠冠のヘルノア。
長命ゆえの落ち着きがあるが、その声音は怒りと警戒を孕んでいた。
「人類連邦ヴァルグラッド、魔族帝国ベリオン、獣人自治区グランハルト。三国が一斉に手を組むなど、前例がない」
冷静に言葉を重ねるのは九尾・晴明。扇子を片手に、眼差しは冷たく戦況を分析している。
「敵は愚かではない。交渉の余地を残さず、こちらに“選択肢”を与えることで、混乱を誘っているな」
ルイが口を開く。
「……一つ、提案がある。全面戦争ではなく、代表五名による“決闘形式”で決着をつけるというのは?」
場が一瞬、静まり返る。
「決闘……?」と呟いたのは芦屋。指を組みながら、面白そうに目を細めた。
「各国五人ずつの代表を立て、五対五の総力戦。勝利した陣営が条約を主導する。あくまで“戦争”ではなく“儀礼”という形式を取れば、大義と面子を保ったまま、無用な被害を抑えられる」
「面白いな」
ランスがニヤリと笑う。「俺は派手な戦争より、そっちのほうが性に合ってる。勝ったら条約を書き換えてやろうぜ。“異種族共栄の義務化”とかなんとか」
「……その発想がすでに戦犯だ」
百目が冷ややかに突っ込むが、同時に多眼の一つが微かに笑っていた。
重鎮のひとり、黄杖のマリュールが唸るように言った。
「だが、それは敵も乗ってくる可能性が高い。無駄に長引かせるより、決闘で決着をつける方が、“強者”の理を通しやすいと見るだろう」
「問題は、こちらの代表五名だな」
晴明が扇を鳴らす。「ルイとランスは確定として、残り三名をどうするか」
すると芦屋が手を挙げる。
「おっと、ここで突飛な提案を一つ。 私と百目と九尾を、代表に加えるというのはどうかね?」
全員の視線が集中する。
「……え、マジで?」とルイ。
「いや、あんたら強いけどさ。どう見ても戦うタイプじゃ──」
「見た目の話は失礼だぞ、少年」
芦屋が軽く肩をすくめる。「私もそれなりに鍛えてるし、百目は精密攻撃特化、九尾は式神展開の域を超えて“演算干渉”が可能だ。……何より、面白そうだろ?」
ランスが笑った。
「いいね。面白くて勝てる。それなら文句ないじゃん?」
そしてルイも、少しだけ口元を緩めた。
「──決まり、か」
こうして、五名の代表が内定した。
■ルイ・アーヴェント
■ランス・アーヴェント
■芦屋神祖
■百目
■九尾晴明
エルフ王国代表──五柱決闘団。
その結成は、戦火の幕開けと同時に、新たな時代の号砲でもあった。