第六話 中章 ─滅界ノ三邪・連鎖する終焉(エンドリンク)─
京の東、かつての神社跡地に、災厄の中心が生まれようとしていた。
禍々しき瘴気の奔流。その中から現れた三体の異形。
・赫焔の鬼蛇・焉
・狂咲の花姫・胡蝶
・屍装の武人・無明
「……三体同時とか、やってくれるな」
流威の呟きが終わるより早く、焉が吠える。
その巨躯から放たれるのは、高熱の蛇炎。
地を溶かし、空気を焼く。その炎の奔流が一気に流威へと迫る。
「式神前衛展開――“雷狼陣”!」
七体の雷狼式神が前に出るが、一息で炭となった。
そして同時に、無明の剣閃が迫る。
「後方援護頼む! 高階、“五光陣”を展開!」
「了解! 五光陣・起動! 雷、火、水、風、土、循環開始!」
空に巨大な五芒星陣が展開され、戦場全体を包むように術式が展開される。
だがそれでも、三体は止まらない。
胡蝶の花びらが空から降る。甘い香り――毒。
周囲の式神たちが一斉に崩れ、動きを止めた。
「くそ、毒の術式か! だがそれなら……」
「術式転写、“逆毒返陣”! お前の毒、返してやるよ!」
流威が札を空に掲げ、毒の花粉を術式ごと弾き返す。
胡蝶の笑みが歪んだ刹那、無明がすかさず流威に斬撃を放つ。
その刃は紙一重で流威を逸れ――後方にいた焉の鱗を裂いた。
「おいおい、仲間割れか?」
三体は共闘しているわけではない。
互いに邪魔をするなら、それも利用するまで。
「墨緋、“黒縄結界”展開! 動きを縛れ!」
影が走り、焉と無明の足を捕縛。
そこへ胡蝶が宙を舞い、無数の花弁を降らせる。
「甘い……五芒星陣、今だ。範囲術式発動!」
「――“終律結陣・五相繋滅”!!」
術陣の中心に霊力が集中し、五色の柱が天を貫いた。
三体を巻き込み、術が爆ぜる。
「いけ、百目! “顕呪瞳・連装砲”だ!」
百目の魔眼が開き、連続でビームを放つ。
焉の顔面を焼き、胡蝶の片翼を引き裂き、無明の鎧を貫く。
だが次の瞬間、無明の残光が閃いた。
「――百目!」
百目の頭部が飛び、術式が崩れる。
流威の手が震える。それでも、目は冷静だった。
「……犠牲を越えなきゃ、手に入らない」
「“転印式神・死獣影縫”」
式神たちの残滓を集め、霊力の再構成。
新たな一撃を作り出す。
同時に、焉が巨大な蛇炎を吐いた。
それを避けるように流威が跳ぶ――その炎が、胡蝶を包んだ。
胡蝶が叫び、羽が焼ける。
その背を、無明が切り裂く。
「……お前ら、ほんとに仲悪いな」
流威はその隙を逃さない。
「式札三重展開――“封印連弾・天縛×三印”!」
三体同時に光の鎖が絡みつく。
焉が暴れ、無明が斬り、胡蝶が咲く。
三体の力が激突し、爆発の嵐が生まれる。
だが、それが重なりすぎたとき――
「バランスが崩れたな……今しかない!」
「式印・零乃終式――
“冥天縛鎖・無限縁結”!!」
空に巨大な輪が現れ、三体を呑み込むように閉じる。
三体は咆哮し、最後の力を振るう。
焉の蛇尾が流威を打つ。
胡蝶の羽根が刺さる。
無明の刃が胸を貫く。
血が吹き出す。意識が落ちかける。
だが――その瞬間、三体の魂が砕けた。
「っ……終わったか」
跪く流威の手に、三つの珠が集まる。
赫焔、狂咲、屍装――三邪、調伏完了。
「……なんとか、勝ったな」
背後に倒れ伏す仲間たち、消えていった式神たち。
誰もが満身創痍。それでも、夜は終わっていない。
「この先が“核”か……行くぞ、墨緋」
五尾の猫又が静かに鳴き、影の道を指す。
次なる戦場――百鬼夜行の本体、“夜行主”が待つ最奥へと、彼は歩を進める。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
本作は、「天才陰陽士が、天使の生まれ変わりだったら?」――
そんな、ある夜ふと頭に浮かんだ厨二病全開の妄想から始まりました。
神話、陰陽術、異世界、神界バトル、猫又、百鬼夜行、そして式神たち……。
自分の“好き”を余すところなく詰め込みながら、物語を紡いできました。
この先も、彼の戦いをどうか見届けていただけたら嬉しいです。
そして、もしこの作品を楽しんでいただけたなら――
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なお、他の作品も本作のスピンオフとなっており、
百目や神祖マザースライムといったキャラクターのストーリーも展開中です。
さらに、流威が“別作品のチートスキル”でサブキャラとして無双する異色作も連載しています。
試行錯誤の真っ最中ではありますが、ぜひ応援していただけると幸いです。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。ありがとうございました!
――筆者より