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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第四章 異界洞穴、開戦の咆哮 ―The War Begins in the Hollow Below―
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第六十七話「ただ、ありがとう」 Nothing but Thanks

「──ありがとう」


 その言葉は、意識するよりも先に、口からこぼれていた。


 別に、敵に情が湧いたわけじゃない。

 でも、今の戦いで、ひとつわかったことがある。

 自分という存在の、“力の使い方”の輪郭が、はじめて形になった気がしたのだ。


 この世界に転生して、十五年。

 力はあった。けれど、扱い方が分からなかった。

 陰陽術に、精霊術、テイム、身体強化、霊力操作、魔力制御……

 多すぎる要素の中で、何が正解なのか、ずっと探していた。


 だけど今日。

 それは答えじゃないかもしれない。

 けれど、間違いなく──“コツ”を掴んだ。


 だから、まずは感謝の言葉を。


 そして、次にすべきことは一つ。


「……終わらせてあげるよ」


 その声音は、自然で、静かだった。


 いままでの自分の打撃は、今思えば幼稚なものだった。

 足を回して、太腿から腰、肩、腕、拳へと力を伝え──

 霊力と魔力を“インパクトの瞬間”に混ぜていた。


 それは、ただの合わせ技だった。


 だが今は違う。

 一歩先へ進めたのだ。


 円運動。

 まず、片足で円を描く──そしてもう片方の足で、さらに半円。

 動作が繋がり、流れが生まれる。これだけで力の効率は1.5倍以上。


 太腿の段階で、霊力と魔力をブレンドし始める。

 そして腰、胴、丹田……全身で、二つの力を“攪拌”する。

 シェイクのように混ぜ、回し、整え、練り上げる。


 その中で力は、加速し、暴発寸前の臨界へと至る。


 拳を構えたときには、すでに身体の中で雷鳴が轟いていた。

 あとはただ、それを一つに収束させて──


 ──撃つ。


 踏み込み、捻り、爆発。


挿絵(By みてみん)

 拳が音を置き去りにする。

 空気が裂け、時空がたわむような音が、遅れて届く。

 打撃は、感触すらないまま対象を貫いた。


 敵が吹き飛ぶ。


 遅れて、爆音。

 鼓膜が揺れ、周囲の瓦礫が跳ねる。


 そして──


 敵の身体を、光が包んだ。


 淡く、柔らかく、それはどこか穏やかな光。

 暴力的な終わりではなく、確かな“結果”を示す印。


 テイム、完了。


 ルイは、静かに息を吐いた。

 この戦いに名をつけるとしたら、ただ一つ──


 **「感謝の一撃」**だった。

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