第六十六話「紅蓮の孤闘」 Crimson Lone Battle
──十対一。
この数字が現実であることを、私はまだ完全には受け入れられていなかった。
この身には、疾風のような脚と、舞うような刃がある。
戦場において、どれほどの戦士が私の斬撃に対応できただろう?
けれど、今。私の一閃が届くよりも先に、誰かの刃が背を狙っている。
避ければ、次の攻撃がそこにある。
受ければ、力で押し負ける。
反撃すれば、視界の外から別の攻撃が襲ってくる。
まるで、最初から終点が決まっている舞台装置の中を踊らされているかのよう。
一歩ごとの選択が、敗北への道を確実に敷いていく。
だが、それでも。
私は舞う。
宙に舞い、地を蹴り、刃を弾き、風を切り裂く。
背後から飛び込む気配を、ぎりぎりで読み切り、肩を逸らす。
地を抉る打撃が、私の足元を吹き飛ばしていく。
だが、回避行動の次に来るのは、さらに鋭く、早く、読めない一撃だ。
──数が違う。
──格も違う。
それは分かっている。私も鈍くはない。
ただ、理解を超えていたのだ。
この異様な“連携”の完成度が。
人と獣と式神と、何か分からない存在たち。
一つひとつが規格外の力を持ちながら、統制された群れのように動く。
誰かが攻撃し、誰かが隙を作り、誰かが封じ、誰かが削る。
次の一手が、必ずそこに用意されている。
反応に自信があった。直感にも、読み合いにも。
けれど今、それら全てが追いつけない。
飛び道具が私を追い、霊的な術が空間ごと凍らせ、
陰の気配を持つ斬撃が、いつの間にか脇腹をかすめていた。
痛みが走る。だが、集中は切らさない。
踊るように刃を交わし、斬り返す。
ほんの一瞬、隙が見える。だが、その一瞬は罠だった。
別の気配が背後から殺到し、私は反転する──それもまた、読まれていた。
体が徐々に削られていく。
気力は残っている。技も衰えていない。
だが、心が気づき始めている。
このままでは、“必ず”負ける、と。
──敵わない。
そんな言葉が、喉の奥で熱を持って渦巻く。
認めたくない。けれど、真実だった。
この連携は、もはや“戦術”ではなく“運命”だった。
私は今、運命そのものと戦っている。
思考の海に沈みながら、それでも私は動く。
一手でも多く。少しでも長く。
この無慈悲な流れに、私という存在の意味を刻むために。
だが──終着駅は、もう見えていた。
それでも、私は、
まだ、斬る。