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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第四章 異界洞穴、開戦の咆哮 ―The War Begins in the Hollow Below―
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第六十五話「焔獅子は、戦火に帰る」 The Flame Lion Returns to the Fires of War

 瓦礫と熱風の残る戦場で、ヴァルハルトは足を止めた。

 その手には、大振りな斧が握られている。重さ、柄の太さ、手に馴染む感触──どれも、自分のそれとは微妙に違う。


 戦闘の混乱の中で、投げれたそれを反射的に掴み、そのままだったが。


「……そろそろ、返すか」


 ヴァルハルトはその斧を肩から下ろし、近づいてくる男に向けて差し出した。

 本来の持ち主、斧神ガウルダ。

 テイムされながらも、その圧倒的な存在感を損なわない、静かな暴の化身。


 無言のまま、ガウルダは斧を受け取る。

 互いに言葉はない。けれど、その一瞬だけ、火と岩が重なったような、沈黙の共鳴があった。


 そして、ヴァルハルトは気づいた。


 ──妙に、調子が良い。


 疲労感はあるはずなのに、身体は軽い。呼吸は静かで、思考は冴えている。

 精神の輪郭がくっきりとして、余計な雑念が霧のように晴れていた。


「……何だ、この感覚は?」


 内から溢れる力は、以前のように荒ぶっていない。

 制御され、方向性を持ち、まるで自分の意思と完全に重なっている。

 不自由どころか、むしろ以前より自由だとすら感じる。


 これが、ルイという少年の力なのか──

 あるいは、その“術”の真髄か。


 彼の視線は、戦場の向こうへと向いた。


 そこには、舞うように刃を踊らせる紅蓮姫レアラ。

 彼女の相手をしているのは──見たこともない悪魔。

 漆黒の体躯、六枚の羽、額に浮かぶ封印の魔紋。尋常な存在ではない。


「……いつの間に、あんなのが?」


 気配はまるで感じなかった。いや、気づける気がしなかった。

 その悪魔──が、レアラと互角以上の攻防を繰り広げている。


 その周囲では、九尾の式神が狐火を展開し、

 さらに、例の切り裂きジャッキーが鋭刃を投げ込みながら動いている。

 そのどれもが、巧みに連携しているのだ。

 多すぎだろ。

 しかも、みんなやたら強い。


 テイムとは別の術式か?

 それとも、異世界特有の召喚法か?

 あるいは……この世界の法則そのものを、ねじ曲げる何か。


「……わかんねぇな。けど……」


 思考は膨らむ。けれど、答えが出る気配はない。

 推測するには材料が足りないし、目の前の戦況は刻一刻と変化している。


「……ま、考えるのは、戦ってからでいいか」


 その瞬間、焔獅子の目に再び火が灯る。

 蒸気のような熱気が全身から立ち上り、地面が一瞬だけ赤く輝いた。

 筋肉が弾け、足元の石がひび割れる。


 そして、ヴァルハルトは再び戦場へと駆け出した。


 誰に命じられたわけでもない。

 ただ、自分の意思で。

 この異様な舞台に、己の存在を刻むために。


 焔の獣は吠えない。けれど、背を焦がす熱量が、戦の予兆を告げていた。

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