第六十二話「牙、咆哮、裂傷の三重奏」 Fangs, Roar, and Laceration Trio
炎が空を焼き、斧が地を割り、刃が影から突き立つ。
四剣の攻勢は止まらない。
芦屋は肩から血を流しながらも、なお円を描き続けていた。
その内周を、ランスの二刀が荒々しく直進する。
斬り、弾き、駆ける。
だが、まだ足りない。圧が、技が、質量が――一歩届かない。
その時だった。
空気が破けるような斬裂音。
風を裂いて跳び込む影が、一閃。
レアラの横腹に裂傷が走り、血が飛び散る。
【切り裂きジャッキー】――鮮烈に参戦。
鋸のような刃を振り回し、喉元を狙い、逆手の短剣で膝裏を切る。
動きは獣じみて、滑らかで狂気を孕んでいた。
彼の介入で戦場が揺れる。
レアラとガウルダが後退し、ランスが一歩前へ。
ジャッキーは笑いながら敵陣へと飛び込む。
まるで自分が“戦場の主”かのように。
攻撃が交差するたびに、芦屋の流れが冴える。
円を描くたび、敵の攻撃が空を斬り、そこへジャッキーの爪が食い込む。
空が閃光に染まる。
――ズドン。
地面がえぐれる轟音。
赤黒い光線が、突如として敵陣の一角をかすめる。
振り向くと、遥か後方。
浮かぶのは一つ目の影。
百目。すでに展開済みだった。
レーザーが容赦なく地面を貫き、ヴァルハルトの足元を削る。
避けざるを得ない。そこへジャッキーの斬撃が突き刺さる。
カリスの影がジャッキーの背後を襲う――
割って入る、芦屋の脚。
体を半身にずらし、太極の動きで敵の突きを逸らす。
そのまま回転しながら反転蹴り。
勢いのままランスが突進し、斬撃を三連で叩き込む。
風の裂け目から、白い衣が滑るように現れた。
【晴明】――静かに参戦。
手には結印された呪符。
足元に三重の結界陣。
術はすでに発動中。
敵の動きが、一瞬止まる。
空間の“圧”が変わる。
ジャッキーが一歩退き、ランスが睨むように構えたその時――
――雷鳴のような破裂音。
ルイが、現れた。
ふわりとした動きから放たれたのは、腕を伸ばした“掌打”。
【発勁】――。
カリスの身体が軽く跳ね、次の瞬間、地に沈み、動かなくなる。
誰もが固唾をのむ。
ルイがそのまま静かに手をかざし、札を一枚、宙に浮かせて叩きつける。
カリスの身体に貼りつき、淡い光が彼を包み込む。
札が燃える。
術式が展開する。
彼の瞼が、開いた。
一瞬戸惑うが、その目に宿るのは敵意ではなかった。
ルイが微笑み、札をもう一枚重ねる。
そのまま、傷を癒し、再起させる――【テイム完了】。
戦力は――6対3。
そして後方支援に百目。
敵の額に、初めて汗が浮かぶ。
静寂。
だが、次の瞬間。
空間が再び揺れる。
勝負は、これからだ。