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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第四章 異界洞穴、開戦の咆哮 ―The War Begins in the Hollow Below―
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第五十九話「天の門、未だ開かず」 The Gate of Heaven Still Unopened

 戦の幕は、晴れやかな空の下で切って落とされた。

 三国同盟――人類連邦ヴァルグラッド、魔族帝国ベリオン、小国連合アトラクト・サンクトゥム。

 およそ二十万の軍勢が、エルフ王国リュミエールの南境を塞ぐように布陣する。


 抜かりなく整えられた陣形。勇ましく翻る三国の旗。

 誰もが、まさかこの快晴が“嵐の前触れ”であるとは思っていなかった。


 ――その頃、リュミエール王都、天嶺の祭壇。


「風速、零。温度、変化なし。目標座標、固定完了。距離、約五千八百トゥール」

 百の魔眼を持つ式神・百目が、冷徹に言葉を紡ぐ。

 彼の視界は既に、大地の果てまでを正確に捉えていた。


「方角、西南西。敵主力の中央陣を指す」


「よし……魔力、流すぞ」

 ルイ・リュミエールは短く応じると、手の中にあった札を高く掲げた。

 その指先から迸る膨大な霊力が、札へと注ぎ込まれる。


 ハイエルフたちは、円形に陣を組み、全員が深く呼吸を整えていた。

 長衣が風に揺れ、手には各々の儀式用の杖。

 彼らの額に光る紋章が淡く輝き始めたのと同時に――ルイが札を天へと投げ上げた。


「翔べ――」


 百枚の札が空を裂くように舞い上がり、弧を描いて天頂へと散る。

 その動きに呼応するかのように、ハイエルフたちの詠唱が始まった。


「――――Ignis primordialis, circulus caelestis...」

「Exaudi voluntatem nostram, et manifesta!」

「Fiat lux. Fiat judicium.」


 それは古き言霊による、儀式魔法の“扉”を開く詠唱。

 言霊が風を揺らし、札は上空にて回転を始める。

 それぞれが光の軌跡を描きながら、空に大きな螺旋を形成していく。


 ルイは目を閉じ、全ハイエルフたちに魔力を送り始めた。

 精霊王の末裔としての力を解き放ち、彼自身が魔法陣の供給炉となる。


「まだだ……もう少し、出力を上げろ……!」


 札たちは輝きながら軌道を整え、術式はその完成へと近づいていく。


 だが――その瞬間だった。


「……雨?!」


 三国の陣地にいた兵士たちが、次々と空を仰ぎ見る。

 晴天だったはずの空に、いつの間にか暗雲が立ち込めていた。

 雲は異常な速度で渦を巻き、雷鳴が走る。


 次の瞬間、まるで滝を逆さにしたかのような豪雨が、陣営全体を襲った。


「うわっ、視界が……っ!」

「な、なんだこれは……?」


 兵たちが狼狽する中、ひとりが叫ぶ。


「……な、何だあれは――」


 そこには、空一面に浮かぶ“魔法陣”があった。


 回転しながら形成される、複雑極まりない三重構造の光陣。

 雷雲を貫いて煌めくその構造体は、まるで空に穿たれた“神の門”だった。


「…………?」


 冷や汗が、誰の頬にも流れていた。

 怒号も命令も止み、ただ魔法陣を見上げるしかなかった。

 そのあまりに巨大な威圧感に、誰もが――口を閉ざした。


 やがて雨音の中、低く、静かに詠唱の終端が響く。


「Judicium caelestis――mox descendet.」


 《天の審判は、間もなく下る》


 ――そして、それは次の瞬間に放たれる。

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