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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第四章 異界洞穴、開戦の咆哮 ―The War Begins in the Hollow Below―
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第五十八話「偽りの大地、脈の歪み」 The False Land, Distorted Pulse

 足元から響く大地の静寂に、ルイは一瞬、目を細めた。

 霊の気配も、魔の蠢きも、ない。

 …あまりに、静かすぎる。


「……魔力が、枯れているな」


 吐き出すように呟いた声が、湿った岩壁に吸い込まれていく。

 あれほどまでに魔素が溢れていたはずの階層が、まるで干上がった泉のように、力の気配を失っていた。


 地に指を這わせ、掌に微細な霊気を流す。

 ……流れが、途切れている。

 龍脈。世界の血管のように、魔力を各地に巡らせる自然の大動脈。

 その流れが、どこかでねじ曲げられ、断ち切られている。


「強引に干渉した痕跡がある。だが、荒い。呪術の素人が、見様見真似で弄ったかのような――」


 唾棄するように言葉を切った。

 線の乱れ、呪符の焦げ跡、刻印の不自然な深さと角度。

 術式に対する無理解、あるいは暴力的な信仰心の混入。

 この程度の雑な術に、真の使い手の気配はない。


「敵の力量、見えたな……呪術の型すら整っていない。知識も浅い。ただ“何かに命じられて”行った類いだろう」


 だが問題はそこではない。

 このダンジョンは、国家間で共有される「境界線上の資源」だった。

 自然発生する魔物と、それを狩る冒険者、集まる戦利品。

 力の均衡を保ちつつ、各国が等しく利益を得るために設定された「共同管理型」の領域。

 それが――この呪術で、壊されかけている。


「ここに湧く魔物を利用し、他国の戦力や経済を支えていた。だが、魔力が枯渇すれば――」


 もはや、この場の価値は消える。

 利用価値を失えば、他国は即座にこのダンジョンの支配を放棄する。

 そして残るのは、“干渉した”者だけが操る廃れた死地。


「このまま下に潜って……コアを破壊すれば」


 ルイの眼が細く光る。

 コア――すなわち、ダンジョンの根幹。

 それを壊すということは、ダンジョンそのものを“終わらせる”行為に等しい。

 本来、慎重に扱われるべき行為。だが――これは既に、壊されかけた場所だ。


「無限湧きにもならない。これでは“遊び場”にもなりはしない」


 霊の波動に応じて、腰の札束がわずかに揺れる。

 式神たちの気配も、どこか冷ややかに周囲を警戒している。


「……やるなら、今だな」


 ルイは静かに階層の底へと視線を落とした。

 ただの破壊ではない。これは“治療”であり、“浄化”であり――

 すべてを終わらせた上で、再生させるための“はじまり”だ。


 次の一歩は、もう迷いなく、闇の奥へと踏み出されていた。

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