第五十六話「武の極、掌に宿りて」 The Peak of Martial Arts Dwells in the Palm
敵の群れが一斉に襲いかかる。空気を切り裂く咆哮と共に、刃のような爪と牙が光る。
だがルイの動きは滑らかだった。右足を軸に上体を半回転させながら背中を大きく振り、胸元を広げた瞬間、肩ごと体重を乗せてモンスターの胴へとぶつける。鉄の壁のような衝撃が音もなく走り、獣型の魔物が吹き飛んだ。沈黙の打撃——まるで鉄の山が迫るような一撃。
そのままルイの体は止まらない。続けて軸足を切り替え、重心を落としながら足裏を払うようにして別のモンスターの脚を刈り、倒れかけたところへ逆回転で肘を打ち込む。関節の軌道は円、流れるような動線で、どこにも無駄がない。
目の前に飛び込んできた飛行系の敵には、踏み込んだ左脚を跳ね上げ、腰から背筋を弓のようにしならせて真上に踵を突き上げる。顎を跳ね上げられた敵は空中で弧を描き、地面に転がる間もなく背後にいた別のモンスターに激突して崩れ落ちた。
流れる水のような連撃。敵の動きを先読みし、踏み込みの瞬間に力を一点へ集中させる。拳は打つというより、流れに任せて滑らせるように当たり、回転した足は刃のように、風を纏って空間を裂く。円、螺旋、波紋……すべてが連なり一つの舞踏のように。
打撃の瞬間、モンスターに霊力の印が刻まれていく。意識を飛ばされた敵はそのままルイに従うように立ち上がり、次の敵へと牙を剥く。
掌底、肘打ち、膝蹴り、身体全体を使った打撃が、途切れることなく続いていく。時に滑らせ、時に回し、時に真っすぐ叩き込む。
最後に現れた大型の魔物に対し、ルイは静かに息を吐いた。胸を広げ、両足を踏みしめ、重心を低く構えて一歩踏み出す。肩から肘、肘から腰、腰から脚へと、すべての力を一点にまとめる。背中全体を打ち込むようにして体をぶつける。風がうなり、巨大な体がまるで瓦礫のように吹き飛んだ。
流麗で無駄のない連撃。その全てが一つの芸術だった。