第五十一話「喰うのか?喰わないの?どっちなんだい」 – To Eat or Not to Eat, That Is the Question
ゾロ目階層から湧き出した異常個体――小型化レイドBOSS。
本来ならば一体一国の戦力を総動員して討伐するレベルの存在が、小型・高速・高知能という危険な形で地上へ飛び出した。
その中でも、森に向かった一体――《シャーインマスカッティス》は特異だった。
緑の果実のような球体を身に宿し、無数の根を地中に張り巡らせ、森そのものを結界と化す植物型の魔物。
見た目こそ可愛げがあるが、耐久力は常軌を逸しており、BOSSらしく通常攻撃ではびくともしない。
「くっ、物理も霊力も流してるのに……再生が追いついてるだと!?」
森の中、晴明の雷符が連続で炸裂するが、シャーインマスカッティスは傷つくどころか果実を肥大化させて反撃に転じる。
芦屋神祖が前に出た。
「……相性がいいはずだったんだがな。どうするか」
次の瞬間、シャーインマスカッティスの果実状の触手が芦屋を捕らえ、そのまま一飲みにした。
ぐしゃりと果実が閉じ、咀嚼のような音を立てて静かになる。
「芦屋ッ!」
晴明が叫ぶが、手遅れだった。
……だが数分後。
シャーインマスカッティスの様子が変わった。
果実が膨張し、根がしおれ、幹が黒ずんでいく。
「おい……なんだ?」
ボゴォ……! と内部から破裂音がして、シャーインマスカッティスの胴体が裂け、中からどろりとしたスライム状の物体が流れ出す。
その中心から、ヌメヌメと人型が形成されていく。
「……ふぅ。胃の中、あまり居心地は良くなかったな」
スライム状態から変化していく芦屋神祖の姿。
晴明があきれたように額を押さえた。
「お前……喰われて倒すとか、どんな手段だよ……」
芦屋が肩を竦める。
「食物連鎖の逆転ってやつだな。魔素の変異体は案外、繊細なんだ」
シャーインマスカッティスの巨体は、芦屋神祖の中で消化・分解され、根から果実まですべてが枯れ落ちていた。
「……つまり、食あたり?」
「あるいは、スライム系による強制的な内部崩壊。名付けて『スライム返し』」
芦屋が冗談めかして笑う。
晴明はため息をついた。
「……勝てたからいいが、ルイに報告するのが面倒くさそうだな」
こうして、木神シャーインマスカッティスは内部から倒されるという予想外の形で討伐された。
だが地上にはまだ複数のレイドBOSSが跳梁しており、流威たちの追跡と討伐は続いていた。