第四十九話 「集う智、巡る策」 Gathered Wisdom, Circulating Strategies
場所はエルフ王国の神殿都市〈ルミエル〉――王都の中心にそびえる聖樹の根元。
その地下には代々の王族と賢者たちだけが使用を許された“円卓の間”があった。
今、そこにはハイエルフの重鎮たち、異世界から転生したルイ王子、そして密かに結成された秘密組織“シークレット・コイル”の代表者たちが集っていた。
重々しい沈黙の中、ルイがゆっくりと立ち上がり、会議を開く。
「まず初めに――この場に集った皆へ説明する。“シークレット・コイル”は、私が主導して設立した対情報、対諜報、対国家戦略組織だ」
ルイの言葉に、重鎮の一人が顔をしかめた。
「王子……影の組織を……?」
「必要なことです。私はまだこの世界の“常識”を知らない。ですが、他国の動きが静かであることの裏には、観察、分析、偵察、そして実験――すでに『攻撃』が含まれていた事実があります」
その言葉と共に、幻影術によって映し出される情報。
転移トラップ、密偵の記録、そして、各国で確認された“異世界の力を持つ者たち”の存在。
「……この一件で、私の存在は既に“把握”され、“警戒”されている可能性が高い。こちらから仕掛けるつもりはない。だが、備えなければならない」
場に緊張が走る。
クラウが前に出て説明を引き継ぐ。
「“シークレット・コイル”は現在、精鋭モンスターたちによる偵察部隊、情報収集班、そしてカウンターインテリジェンス班に分かれています」
そして、芦屋神祖が後方から一歩進み出る。
「先日、一人の“スパイ”が聖樹を監視しようとした。鷹の目――超遠距離観測を可能とする上級偵察スキルを持っていたが、私の結界により捕縛済み」
「尋問と同時に、“テイム”によって情報を封じ、別ルートの偽情報を流しておきました」
ハイエルフたちがどよめく。
「まさか、人をテイムできるなど……」
「理性ある相手は容易ではありませんが、条件さえ満たせば可能です。捕縛、気絶、もしくは強制睡眠。あとはダンジョンアクセサリーが提供する“拡張テイム”スキルで」
ルイが静かに頷いた。
「……我々はこれより、情報と“影”の力でこの国を守ります。戦うのではなく、“備える”。それが、私が世界と向き合う方法です」
それは――“力”を誇示するのではなく、“知”と“策”で世界に睨みを効かせる宣言だった。
やがて会議は、今後の他国の動きと、その対応策へと移っていく。
・中央帝国への報復案の是非
・転移術式の逆解析
・テイム済みスパイの活用法と流言操作
・各国に潜む転生勇者や魔王候補の調査強化
そして、円卓の中心に立つルイが静かに言い放つ。
「“表”は精霊と共に。
“裏”は影と共に。
いずれ来る戦乱に、備えておく必要がある」
聖樹の光が、少年の背に降り注いでいた。




